「会社の組織に使われているなあ」と感じているビジネスパーソンも多いのでは。部下に「使われている」と思わせないようにするには、どうすればいいのか。部下をその気にさせる「ゆさぶり力」を紹介しよう。
著しい労働環境の変化に振り回される昨今、上司がマネジメントに徹することは難しく、実務をこなしながら部下育成やチーム作りを行うことは、もはや当然のことになりつつある。しかし働き方が多用化する中で、影響力を発揮できる「上司力」を持つ人材は少ない。そこで本連載では「上司力入門」と題し、20〜30代前半の若手社員のうちから「上司力」を鍛える方法を、人材育成の専門家が解説する。
吉田実(よしだ・みのる)
株式会社シェイクの代表。
大阪大学基礎工学部卒。住友商事株式会社に入社。通信機器の営業、携帯電話を活用した新規事業立ち上げに携る。2003年シェイクに入社。営業責任者として、人材育成事業の立上げ、拡大に従事。2006年よりファシリテーターとして登壇し、実績は新入社員から若手・中堅社員、管理職層まで多岐に渡り、育成に携わった人数は1万人を超える。
2009年9月より代表取締役社長に就任。最近は、中堅社員育成の専門家として、メディアでも広く取り上げられている。2011年1月に書籍『「新・ぶら下がり社員」症候群』(東洋経済新報社)を出版。
これまでの日本においては、横並びであることや同質であることが求められてきた。人と違う行動を取ることは、和を乱す行動であり、組織において“異端児”扱いをされることが多かった。大学生に話を聞くと「人と違う行動をすることは怖い。人と違う行動をするといじめられる対象になった」と話す。人と違う行動を取ることは、リスクのある行動なのである。
社会人においても同様だ。高度成長期から続くこれまでの時代は「大量生産の時代」である。大量生産の時代に求められるのは「効率」である。決められたことをミスなく実施することが求められたのだ。人と違うことをすることは「効率」に反することであり、ミスの発生につながる。組織においては、上司の指示に忠実に従う人が重宝された。社会人においても、人と違う行動を取ることはリスクなのだ。
しかしながら、時代は変化している。多様化の時代になり、大量生産や効率化よりも新たな価値を創造することが重視されるようになってきている。「効率」ではなく、「価値発揮」に焦点が当たってきているのだ。
このような変化の中、社会に求められる人材も「決められた答えを出す人材」から「自分なりの答えを考え出す人材」へ転換してきている。
皆さんにおうかがいしたい。皆さんがしている仕事において、あなただからできる仕事はどれくらいだろうか? 逆に、あなたでなくてもできる仕事はどれくらいだろうか?
自分の仕事を他人でも置き換えられると感じる人は、仕事において“あなたならでは”の付加価値を出せていない可能性が高い。自分だからこそ出せる価値を出さないと、それらの仕事はより給料の安い人に置き換えられていく可能性が高い。日本語を流暢に話す外国人も増えてきている。外国人や機械に置き換えられる可能性もある。誰でもできる仕事を作業的にこなしているだけでは、価値として認められなくなってきている。これからは、ますます、個人の価値発揮が求められる時代なのだ。
多様化の時代とは、一人ひとりが“彩り”を放つ時代である。全員が金太郎あめのように同質であることは多様化ではない。私は私であり、あなたはあなたである。“私とあなたは違う”というのが多様化時代における基本的な考え方である。
仕事においても、自分らしい価値発揮をすることが求められている。しかしながら実際のところ、組織において自分らしい付加価値を出すことは難しいと感じている人も多いだろう。
なぜ組織で自分らしく働くことが難しいのだろうか? それは組織が強力な仕組みで成り立っているからだ。極端な言い方をすれば、組織とは強力なマシーンのようなものだと言ってもいいだろう。このマシーンは利益が出ないと滅びてしまう。利益を出すために、さまざまなルールや仕組がある。このルールや仕組みに反して、働く人が好き勝手な行動を取ると、組織に対して多大な損害を与えることもある。従って組織で働く以上、組織が定める枠組みに沿って働く必要があるのだ。
これが組織で働く人に窮屈感を与えている。新入社員になったとき、まず求められるのが「社会人としてリスクのない行動をとれるようになること」である。会社や社会のルールに沿って、行動できることが求められる。このことより、働くことは決められた枠の中で窮屈に働かなければいけないと感じてしまう。多くの人が「組織の歯車である」と感じる所以である。これまで1万人以上の人材育成に携わってきた感覚からは、9割程度の人が“組織に使われている”と感じているように思う。
一方で、約1割の人は組織に使われている意識を持っていない。逆に、組織というマシーンを使っている意識を持っているのだ。自分のやりたいことを“組織を使って”実現している意識を持っている。自らが歯車であるという意識はなく、動力である意識を持っている。組織はあくまでも自分がやりたいことを実現する場なのだ。社会と自分をつなぐ場と捉えている。
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