机は、働いている自分を表現する「リアルのFacebook」机を基地化せよ(1/3 ページ)

机は仕事に新たな価値を生み出すベースであり、職場の「円滑な」人間関係を持続するツールでもあります。机で自分をリアルに表現することで、自分のパフォーマンスを引き出す「机の秘密基地化」ができるのです。

» 2013年03月22日 10時30分 公開
[美崎栄一郎,Business Media 誠]

集中連載「仕事はできるのに、机がぐちゃぐちゃで困ってるきみへ」について

 本連載は2013年2月23日に発売した『仕事はできるのに、机がぐちゃぐちゃで困ってるきみへ』(アスコム刊)から一部抜粋しています。

 多くの「片付け本」や「整理整頓本」にイマイチ感情移入できないのは、職場のリアルな人間関係を無視して「捨てる」という安易なメッセージに終始するためです。

 突然「例の資料出して!」と指示するキマグレ上司。資料を山のように積んで、

隣に侵食するナダレ男。何でも聞いてくる依存系部下。

 気が付けばペンを持っていってしまうコソドロ。本書は、そんな人間関係から身を守り、自分のパフォーマンスを最大限に引き出す「机の秘密基地化」についてお話ししていきます。


登場人物の紹介

 机の基地化は、職場の人間関係を考慮してこそできること。ここでは具体的な人間関係のモデルを設定し、架空の登場人物を使います。舞台は、月光堂株式会社。約3万人の従業員を擁する大手日用品メーカーの本社オフィスです。

(1)三崎:主人公。32歳男性、独身。大学院修士課程を修了後、月光堂に入社。本社での研修を終えたあとは、地方の研究所から地方の工場の品質管理部門に転じ、商品開発と品質管理の最前線で働く。念願かなって本社の開発3課に異動となったが……。

(2)赤松課長(通称・アカハナ):開発3課長で三崎の直属の上司。43歳男性。一応既婚、子持ちらしい。なぜか鼻の頭がいつも赤い。開発の手腕というよりはゴマスリと世渡りのうまさでポストを獲得。ムチャ振りが多く部下からの人望はもう1つ。健康サンダルを愛用。ITリテラシーが低い。

(3)高杉(通称・出木杉):三崎と同期入社で同じく32歳。男性。未婚で修士卒。知識、能力だけでなく仕事ぶりもピカ一で、早くも世間が注目するヒット商品を生み出し、出世街道を猛進中。彼の机が価値を作り出す場所として巧みに設計されていることを知る人は少ない。

(4)大森(通称・ナダレ):36歳男性。開発3課主任。研究者としては独創的との評価がある一方で、机の上を整理する概念がなく、表面は常に見えない。斜めに置かれたキーボードを打てるのが特技。山のように積み重ねた資料や本が隣席を侵食し、ときには雪崩となって襲いかかる。

(5)石川(通称・コソドロ):年齢不詳の男性。40代らしい。主任。マッドサイエンティスト的な雰囲気をまとっている。常に人の机からペンやハサミなどの文房具を失敬するクセがある。

(6)山岡(通称・依存ちゃん):27歳女性、独身。入社3年目。仕事はソコソコこなすが、期待以上の成果を挙げたり自ら新しい課題に取り組んだりする意欲は乏しく、アシスタントから脱皮できない。調べれば済みそうなことをすぐ人に聞く。雑談とコンサバ系ファッションが大好き。残業は大嫌い。

(7)新田(通称・新人):24歳男性、独身。大学院を出て研修を終えたばかりの新入社員。まだ修業中で仕事はなく、アシスタントをしながら勉強中。仕事が少ないので、机はきれい。

(8)中沢課長(通称・ボス):開発2課長。42歳女性、独身。数々のヒットを飛ばすトイレタリー部門のエースで、業界で知らない人間はいない。月光堂初の女性プロパー役員も夢ではないとのうわさ。アカハナと同期。大器かつ美人で男女関係なく慕われているが、私生活は謎に包まれている。


着任初日の朝

 朝9時前。総務部で受け取った新しいIDカードをリーダーにかざして、三崎は7階の大部屋に入った。

 窓から見える東京の空は、思っていたよりもずっと青みが深い。いよいよ今日から、念願の本社勤務が始まる。

 「赤松課長、おはようございます。どうぞよろしくお願いいたします」

 「おお、来たか三崎くん。待ってたよ! いやあ、よろしく!」

 そう言って、「アカハナ」こと赤松は三崎の肩をポンッとたたく。

 (なんか大げさだな、この人。ちょっと面倒くさそうだ。しかし鼻の頭が微妙に赤いのはなぜ?)

 「おいみんな、ちょっと集まってくれ! もう知ってるとは思うが、彼が今日から配属になった三崎くんだ。なんせ今まで工場で4年も飯を食ってきた男だから、品質管理のプロだぞ。みんなの仕事ぶりも厳しく管理してもらうからな!」

 朝イチからヌルッとした冗談を飛ばして、アカハナはご満悦だ。その隣で、三崎の同期生「出木杉」こと高杉が、こちらを見てこっそり苦笑いしている。

 あの課長、やっぱりちょっと変な人なのだ。三崎にとっては研修のとき以来の本社勤務なのだが、優秀でしかも気心が知れている出木杉と同じ部署なのは心強かった。三崎に用意された席は、出木杉の向かい側だった。

 まっさらな机に、電話機とPCのモニターと本体、各種のコードやマウス、そして前の職場から宅配便で送っておいた段ボール箱が置かれている。

 (さて、今日のところは取りあえずセッティングと荷物の整理だな)

 段ボール箱を開封しようと、三崎は出木杉にカッターナイフを借りようとした。すると出木杉は、まるで三崎からそう頼まれることを知っていたかのようなスピードで、ちょっと高級そうなカッターを貸してくれた。さすが出木杉だ。

 「出木杉」というのは、同期入社のなかでは抜きん出て知識が豊富で、しかも手際よく効率的な仕事をするために、新人研修の期間中に同期連中から付けられたニックネームだ。当の本人も、面と向かってそう呼ばれることを気にもしていない。よほど自信があるのだろう。

 出木杉は、早くも経営陣の目に止まる実績をいくつも挙げていて、同期の見立ては間違っていなかったことが証明されつつある。だからといって、ことさら偉ぶる素振りがないのも、出木杉の出木杉たるゆえんだ。

 しかし、カッター1つ出すにも彼には寸分もムダな動きがない。ついでに、カッターの切れ味までが素晴らしい。三崎は、出木杉の机に目をやった。

 (何というか、机そのものが「出木杉っぽい」感じがする。きっと、整理整頓にも一家言あるんだろうな)

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