書類の整理に「三段トレイ」を使わない理由机を基地化せよ(1/2 ページ)

机周りを整理整頓する行為は、意外に体力を使います。しかし気分転換になったり、あえて決まったスペースを作っておくことで、仕事の効率化につながることがあるのです。

» 2013年04月04日 10時30分 公開
[美崎栄一郎,Business Media 誠]

集中連載「仕事はできるのに、机がぐちゃぐちゃで困ってるきみへ」について

 本連載は2013年2月23日に発売した『仕事はできるのに、机がぐちゃぐちゃで困ってるきみへ』(アスコム刊)から一部抜粋しています。

 多くの「片付け本」や「整理整頓本」にイマイチ感情移入できないのは、職場のリアルな人間関係を無視して「捨てる」という安易なメッセージに終始するためです。

 突然「例の資料出して!」と指示するキマグレ上司。資料を山のように積んで、

隣に侵食するナダレ男。何でも聞いてくる依存系部下。

 気が付けばペンを持っていってしまうコソドロ。本書は、そんな人間関係から身を守り、自分のパフォーマンスを最大限に引き出す「机の秘密基地化」についてお話ししていきます。


 机の基地化は、職場の人間関係を考慮してこそできること。ここでは具体的な人間関係のモデルを設定し、架空の登場人物を使います。舞台は、月光堂株式会社。約3万人の従業員を擁する大手日用品メーカーの本社オフィスです。

登場人物の紹介

(1)三崎:主人公。32歳男性、独身。大学院修士課程を修了後、月光堂に入社。本社での研修を終えたあとは、地方の研究所から地方の工場の品質管理部門に転じ、商品開発と品質管理の最前線で働く。念願かなって本社の開発3課に異動となったが……。

(2)赤松課長(通称・アカハナ):開発3課長で三崎の直属の上司。43歳男性。一応既婚、子持ちらしい。なぜか鼻の頭がいつも赤い。開発の手腕というよりはゴマスリと世渡りのうまさでポストを獲得。ムチャ振りが多く部下からの人望はもう1つ。健康サンダルを愛用。ITリテラシーが低い。

(3)高杉(通称・出木杉):三崎と同期入社で同じく32歳。男性。未婚で修士卒。知識、能力だけでなく仕事ぶりもピカ一で、早くも世間が注目するヒット商品を生み出し、出世街道を猛進中。彼の机が価値を作り出す場所として巧みに設計されていることを知る人は少ない。

(4)大森(通称・ナダレ):36歳男性。開発3課主任。研究者としては独創的との評価がある一方で、机の上を整理する概念がなく、表面は常に見えない。斜めに置かれたキーボードを打てるのが特技。山のように積み重ねた資料や本が隣席を侵食し、ときには雪崩となって襲いかかる。

(5)石川(通称・コソドロ):年齢不詳の男性。40代らしい。主任。マッドサイエンティスト的な雰囲気をまとっている。常に人の机からペンやハサミなどの文房具を失敬するクセがある。

(6)山岡(通称・依存ちゃん):27歳女性、独身。入社3年目。仕事はソコソコこなすが、期待以上の成果を挙げたり自ら新しい課題に取り組んだりする意欲は乏しく、アシスタントから脱皮できない。調べれば済みそうなことをすぐ人に聞く。雑談とコンサバ系ファッションが大好き。残業は大嫌い。

(7)新田(通称・新人):24歳男性、独身。大学院を出て研修を終えたばかりの新入社員。まだ修業中で仕事はなく、アシスタントをしながら勉強中。仕事が少ないので、机はきれい。

(8)中沢課長(通称・ボス):開発2課長。42歳女性、独身。数々のヒットを飛ばすトイレタリー部門のエースで、業界で知らない人間はいない。月光堂初の女性プロパー役員も夢ではないとのうわさ。アカハナと同期。大器かつ美人で男女関係なく慕われているが、私生活は謎に包まれている。


出木杉のストレス解消

 午後5時。静かにPCに向かっていた出木杉が突然立ち上がり、ワイシャツの腕をまくって引き出しを開け始めた。ファイルを引っ張り出しては資料の中身を広げ、選別している。テキパキと分別し、机の上にあるファイルをいくつか引き出しにしまう。

 「どうした出木杉? 手伝おうか?」

 「いや、今日は気分が乗らないから、いいんだ」

 気分が乗らない? むしろノリノリに見える。そうやって小1時間ほど作業をしていたが、やがて大量の紙ごみをリサイクルボックスに放り込み、デスクに戻ってくると高らかに宣言した。

 「あーすっきりした。三崎、今日はお先に帰るわ! じゃあな」

 妙にさっぱりした表情で、出木杉はさっそうと去っていった。

「やる気がしない」ときこそ片付けのチャンス

 モノを捨てる、あるいは机の周りを整理整頓する行為は、意外に体力を使います。仕事納めの日でもない限り、いきなり朝イチからバタバタやり始める人は少ないでしょう。

 一方で仕事をしていると、どうにも気乗りしない日があります。少なくとも僕はそうです。何を考えてもよいアイデアが浮かばないし、そもそも浮かぶ気がしない。プレゼン資料や報告書を書かなければいけないけれど、一向にキーボードをたたく気にならない。ここしばらくはそんなに忙しくないし、今日は定時で上がって帰っちゃおうかな? というノリの日です。

 しかし仮に午後5時にそうした状態になって、いったん頭のスイッチを切ってしまっても終業時間までは何らかの形で仕事を続けなければなりません。だからといって、もはや「リーディングレーン」の資料を読む気分にはなれないし、無理に読み始めても、きっと頭に入りません。

 こんなときが片付け、整理整頓のチャンスです。早速「アグレッシブレーン」や「リーディングレーン」を点検し、一番下の引き出しを引っ張り出して奥に押し込められてしまった書類を捨てます。

 周囲に迷惑を掛けないようにする必要はありますが、案外こうした行動は好意的に受けとられるものです。そして何より、頭が疲れているときに身体を動かすと一種の爽快感が味わえます。捨てても構わないものが明快になっているわけですから、躊躇(ちゅうしょ)なく廃棄してすっきりできますし、スペースは広くなります。

 それどころか、そんな状況に限って「ひょうたんから駒」ではありませんが、デッドロックに乗り上げていたはずの問題を解決する新しいアイデアが浮かんできたり、上司の説得法や報告書のうまい言い回しや締め方を思い付いたりするものです。

気分が乗らないときこそ机の整理がオススメ

 ちょっと気分が乗らない状況の原因は、ネガティブな気持ちだったりすることもあります。失敗を犯してしまった、力が足らずに悔しい思いをした、プレゼンで負けた……ひょんなことから、すべてのことに対する積極性を失ってしまうのです。こういうときにも整理整頓が有効です。しかも即効性があると思います。

 特に、かつて仕事で使っていた資料は自分の仕事の軌跡でもあります。捨てるかどうかを判断するうちに、少し前の自分の仕事を振り返るきっかけになるのです。

 時間というフィルターがかかると、うまくいったプロジェクトも反省点を残したり、失敗そのものに終わった仕事も大げさに言えば卒業アルバムをひっくり返すように振り返れるものです。当時と現在では、能力も知識もテクニックも着実に成長していることが、実感として心の中から湧いてきます。

 結局は「捨てるか、取っておくか」の判断をするだけなのですが、同時に「懐かしさ」と「自分の成長を客観視する」という、思わぬ副産物を得られます。つまり、これは机の状態をキープする行為であると同時に、自分のモチベーションが切れそうになったとき、気分を高めるための方法を準備しておくことでもあります。僕の場合は、1カ月に1回程度全体を整理していました。

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