もう1つ、よくある失敗例として、相談に来た相手を萎縮させてしまうというものがあります。
後輩: 「今、質問してもよろしいですか?」
先輩: 「何? どんなこと?」
後輩: 「(PC見ながら返事されても……。強い口調で言わないでほしい、忙しいんだろうけど話しにくい……)」
こういったケースでは、後輩は先輩から威圧感を感じ、しどろもどろな報告、あるいはごまかしの報告になり、だんだん正しいホウレンソウから遠のいていくことになりかねません。
「忙しいときは、あえて話しかけにくい雰囲気を演出している」と言う人もいますが、そんな人がすぐに、話しかけやすい雰囲気が出るように切り替えられるとは思えません。話しかけるなという空気感が積み重なると、いずれ部下は離れていきます。そしてホウレンソウが遅いという悪循環に陥り、結果的に自分の首を絞めることになってしまいます。
もちろん誰しも忙しいときはあります。忙しいときは「ごめん、今は手が離せないから、30分後でも大丈夫? 緊急なら今聞くよ」と、言葉で伝えてみてください。そしてこのときに表情やしぐさなどの力も活用し、話しかけられやすい雰囲気を整えてほしいのです。
なんとなく伝わる空気感や雰囲気を、コミュニケーション用語ではノンバーバル(non-verbal)コミュニケーションと呼びます。先ほどから紹介してきた、表情やしぐさ、口調など、言葉を使わないコミュニケーションの総称です。反対に、言葉によるコミュニケーションはバーバルコミュニケーションと呼びます。
参考までに、以下に話しかけやすいノンバーバルコミュニケーションと、話しかけづらいノンバーバルコミュニケーションの代表例を挙げてみました。上記のセリフを「表情や言い方を穏やかに」+「無駄な動きがない」を意識して伝えてみてください。部下は冷静な気持ちで対応できるでしょう。
前者は特に語尾を抑えることが重要です。語尾が荒かったり強かったり、早口だと話しかけにくい雰囲気になります。貧乏ゆすりをしたり、手癖が出ると「忙しいんだよ、見て分かんないのかよ」と考えているように伝わってしまうので、後者も重要です。こうしたノンバーバルな要素を取り入れたときは、相手の反応ははっきりとよくなります。
話しかけやすくなるノンバーバルコミュニケーション | 話しかけにくくなるノンバーバルコミュニケーション | |
---|---|---|
言葉の語尾 | 表情や言い方が穏やか | 語尾が荒かったり、雑だったりする |
しぐさ | 無駄な動きがない | 無駄な動きがある(貧乏ゆすり、ペン回し、髪の毛をかく、など) |
相づち | 肯定的な反応(なるほど、うんうん、こういうこと?など) | 否定的な反応(え?マジ?まずいでしょ) |
声をかけたときの反応 | 話しかけると軽く笑顔でこちらを向く | 強すぎる視線(にらみつけ、凝視) |
性格 | 普段から感情のアップダウンが少ない | 普段から感情のアップダウンが激しい |
このような積み重ねが、後輩や部下にとって遠慮なくホウレンソウができる環境づくりに役立ちます。ぜひ日ごろから「話しかけやすいノンバーバルコミュニケーション」を実践してください。気を遣う部分が多く、面倒に感じる人も多いとは思いますが、自分の仕事のためにも、後輩から積極的に“ホウレンソウ”をしてもらう方が、トラブルは起きにくいと割り切って、話しかけやすい人を目指してみるのが得策です。
Q:部下や後輩の報告、連絡、相談が遅い。事あるごとに注意しているのに、いつもギリギリになってダメなことが発覚します。どうしたら、積極的にホウレンソウに来てくれるのでしょうか?
A:もしかすると、相談されない上司側にも原因があるかもしれません。自分のノンバーバルコミュニケーションが威圧的でないか客観視し、話しかけやすい雰囲気を整えてみてはいかがでしょう。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/ヒューマン・スキル講師
大手システム販売会社にて販売促進、大手IT系人材紹介会社にて人材育成、通信キャリアでの障害対応、メーカーでのマーケティングに従事。さまざまな立場でさまざまな人と仕事をし、「ヒューマン・スキルに長けている人間は得をする」と気づく。提供する側にまわりたいと、2007年より現職。IT業界を中心に、コミュニケーション・ファシリテーション・リーダーシップ、フォロワーシップ、OJT、講師養成など、年間100日以上の登壇及び、コース開発を行っている。日経BP「ITpro」で、マナーに関するクイズ形式のコラムを連載中。
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