『東京トイボックス』の子供っぽさ全開の太陽が社長であるスタジオG3は、経営がうまくいっていないし、作りたいゲームにも手が回らないという状態でした。
そこで登場するのが、太陽が持つ幼児性を理解してその才能を引き出す仙水や、大手企業からスタジオG3に出向させられたキャリアウーマンの月山星乃(つきやま ほしの)です。
クリエイティブな人がうまくチーム内で才能を発揮するためには、仙水や月山のような猛獣使いが必要なのかもしれません。
梅崎: 仙水が「お前はオレに使われてこそ価値がある」(単行本2巻)と言っているのは、自分と組めば、太陽は幼児性を維持していけるし、他のことは自分がやるという状況を作りたいわけです。
太陽は本質的にチャイルディッシュで天才肌だから、自分で幼児性をコントロールしようとすると失敗する。こういう天才肌の人をうまくチームで生かしていくには、仙水のように、太陽に合わせながら彼の子供っぽさを全開にできる世界を作ってあげて沸騰させ、その状態を調整する人が重要なのかもしれない。
「一緒に子どもっぽくふるまいつつ、本当は素の幼児性は持っていない」という人がキーパーソンになってくるのではないでしょうか。
ゲーム制作の現場から少し飛んで、梅崎先生には、コンテンツ産業の展望を最後に語っていただきました。『東京トイボックス』には、日本の未来に関するヒントがいろいろ詰まっています。
梅崎: 日本は、製造業の雇用吸収率が落ち込んでくる。となると、第三次産業の割合が増していきます。この第三次産業は二極化していて、1つはサービス業。これは、マンツーマンのサービスなので対価を考えると賃金が低くならざるを得ません。なので、クリエイティブなことをやらなくてはいけなくなります。
しかし、国の政策でクリエイティブな企業を支えるとか、クリエイティブなことを教えるというのをやった時点でもう負けなんです。そうではなく、チャイルディッシュで、かつテンションも高くて、リスクフリーで自由度の高い場所を作ってあげる。そして、みんなで沸騰状態になるしか、クリエイティブなものは生まれてこないのではないでしょうか。コミケとかは、すばらしい創造的沸騰の場でしょう。
西洋人は子どもっぽく振る舞うことを規律訓練で禁止されますが、日本人なら「ゆるキャラ可愛い!」とか平気で言えますよね。それゆえ、日本人は子どもっぽい民族だと思われているのですが、これはビジネス的にはすごいアドバンテージで、クリエイティブなものを生み出せる可能性がまだまだあると思います。
(山口亜祐子)
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