AmazonやZARAが実現している「ありえない効率化」:トップ1%の人だけが実践している思考の法則(3/3 ページ)
多品種、少量生産が当たり前の小売企業にとって、発注から納品までのスピード感はとても大切。オンライン小売大手のAmazon.comと、ファッションブランドZARAの例を見てみましょう。
ファッションとコンピュータネットワーク
スペインのファッションブランド、「ZARA(ザラ)」はその優れたサプライチェーンマネジメントで知られています。本部のデザイナーは次のシーズン向けだけでなく、既に市場に出回っている商品の見直しもします。世界中のZARAで「この店ではこんな服が売れる」という情報をストアマネジャーと共有し、デザイン画を描けば約2週間で出荷されます。
女性は人気アイテムに群がる傾向がある一方で、他人と同じものは着たくない天邪鬼な傾向がありますから、大量に作ると余剰在庫になってしまいます。
ZARAでは売れる分だけを作り、売り切れたらそれでおしまいです。1つの店舗では、同じ商品の在庫はせいぜい2、3点。二度と同じ服を見つけることはできないので、それが購買者にとっては希少性となり、購入意欲をそそります。
ZARAにとっての差別化とは、いかに売れそうなものを売れそうな数だけ、いかに素早く作って届けるか、ということ。華やかなファッションの世界にあって、ZARAはそうしたビジネスニーズを緻密に組み立てられた巨大なコンピュータネットワークのシステム上で運営しているのです。こうしたシステムにより、今売れるものだけをすぐ作る逆転のアプローチを可能にしています。
余計な在庫を持たないことで、企業の収益力は飛躍的に高まります。ファッション業界は値引き販売が恒常的に行われており、平均的なアパレルメーカーは正価で販売した場合に比べて実際の売り上げは6割程度にとどまりますが、ZARAでは85%に達するといいます。
最新の流行を採り入れながら低価格におさえた衣料品を、短いサイクルで世界的に大量生産、販売するファッションブランドは「ファストファッション」と呼ばれています。ZARAは、H&M、GAPとともにファストファッション業界の3強の1つになっています(ユニクロは第4位です)。
アマゾンやZARAなど、多品種、少量生産が当たり前の小売企業にとってロジスティクス(※)は生命線です。両社とも、急スピードで発注から納品までを行う仕組みが、コアコンピタンスの1つとなっています。
(※)消費者ニーズなどに合わせて、生産から配送までのライフサイクルを最適化すること
そしてリードタイムを極限まで短くするイノベーションに、「逆転の発想」と「コンピュータテクノロジー」がうまく組み合わせているのです。
ビジネスプロデュース力のヒント
- 業界の持つ課題に対して、自動化によってイノベーションを起こせる領域がないか? 自動化に大きな初期投資が必要だとしても、リードタイムを極小化するシステムは、それを補って余りある収益をもたらしてくれる可能性が大きい。
なお本連載の基となった『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』(永田豊志著、かんき出版刊)では、5Aサイクルの具体例として、グーグルのほか、ダイソン、アマゾンなど今をときめくイノベーティブな企業群のエピソードを18のケースストーリーで紹介しています。
集中連載『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』について
本連載は2012年12月19日に発売した『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』(永田豊志著、かんき出版刊)から一部抜粋しています。
- なぜ、Amazonは「大量の小口注文」をさばけるのか?
- なぜ、Googleは「独自の検索システム」を編み出せたのか?
- なぜ、ディズニーランドは「夢」を売ることができるのか?
- なぜ、ダイソンは「羽根のない扇風機」を開発できたのか?
本書は、イノベーションを起こして、ビジネスで勝ち残るための「思考法則」についての解説書です。これからの働き方は、大きく変わります。今まで通りに目の前にある仕事を頑張って働くのではなく、新しいイノベーションを起こしてソリュ―ション(問題解決)することが不可欠になります。本書はあなたの仕事にイノベーションを起こすために、トップ1%のできるビジネスマンだけが実践している「思考の法則」を著者、永田豊志氏が見つけ、分かりやすくまとめたものです。
「営業」「企画」「経理」「総務」「財務」「マーケティング」――など、あなたが何を専門に従事しているかはまったく関係ありません。すべてのビジネスパーソンに必要な「思考」だからです。ぜひ、本書を読んで、変化の激しい時代に、あなたがたくましく生き残れるよう役立ててください。
著者紹介:永田豊志(ながた・とよし)
知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。
リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。
ビジネスマンの「知的生産性の向上」をテーマに精力的に執筆・講演活動も行っている。近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』『ノート・手帳・メモが変わる絵文字の技術』(中経出版刊)、『すべての勉強は、「図」でうまくいく』(三笠書房刊)がある。
連絡先: nagata@showcase-tv.com
Webサイト: www.showcase-tv.com
Twitterアカウント:@nagatameister
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