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「AIスピーカーに話し掛けるのが恥ずかしい」がもたらす、ちょっとした大問題“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)

» 2018年06月11日 07時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]
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音声インタフェースは利用者が育てなければならない

 Googleのデモは、AIが自分に代わって電話を掛け、レストランなどに予約を入れるというもので、片方の話し手がAIだとは気付かないほどやり取りはスムーズだった。あくまでこれはデモであり、現実にはここまでスムーズなやり取りは難しいだろう。だが、AIによる会話が想像以上のレベルまで進歩しているのは間違いない。

 つまり、音声操作は次世代の中核的なインタフェースになる可能性が高いということなのだが、ここで大きな問題が発生してくる。音声を使ったインタフェースは、利用者数が多ければ多いほど精度が上がり、利用者数が少ないと精度が下がってしまうという欠点を持っている。

Googleが自社イベント「Google IO 2018」で行った電話予約システム「Duplex」のデモ Googleが自社イベント「Google IO 2018」で行った電話予約システム「Duplex」のデモ

 キーボードやタッチパネルは、ひとたび仕様が固まってしまえば、全員にとって条件は同じになる。ところが音声操作の場合、利用者がツールを育てていくという側面があり、全員が同じ条件でツールを利用できるとは限らない。

 米国など、英語圏で、かつ人口が多い地域のサービスは、使い勝手が日々向上する一方、マイナーな言語で利用者数が少ない地域ではサービス水準がなかなか上がらないということが十分にあり得るだろう。ビジネス的に採算が合わないと判断された場合、その言語でのサービスが中断されてしまう可能性もある。

 実際、主要言語圏以外の地域に住む人にとって、人工知能の操作を英語で行うことは当たり前のことであり、それは小国の宿命でもある。

 日本市場は、同一言語を話す、生活水準の高い消費者が1億人以上存在するという、世界的にも数少ない有利な条件を備えている。英語版に続いてすぐに日本語版のサービスが登場するのはこうした市場環境のおかげであり、このアドバンテージは日本人に極めて大きな利益をもたらしている。

 AIスピーカーのような「育成型」インタフェースでは、普及が進まない場合、日本語でのサービスが打ち切られてしまう可能性は決してゼロではないだろう。恥ずかしがって利用を躊躇していると、サービスそのものが使えなくなる可能性があることも理解しておいた方がよいだろう。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。


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