開発ではコンピュータシミュレーションが重要な役割を果たした。まずCAD(Computer Aided Design)を使って設計し、設計データを独自の音程シミュレーションソフトで解析。そして、解析結果を絞り込み3Dプリンターで試作し、試奏の後、補正していった。音響計算の理論では、直管でも曲げた場合でも音色や音程は変わらないことから、シミュレーションは直管で行ったが、実際に曲げて試作し試奏するとシミュレーション結果と異なることから、音孔の位置や内径を細かく補正することを繰り返した。
音域は、楽器として成立させるために2オクターブに設定したが、開発を始めた15年当時は1オクターブ強しか出せなかった。2オクターブ出せるようになったのは、開発が始まってから1年ほど後のことだった。
また、メンテナンスが簡単にできるよう、キイをネジ留めしリペアマン(修理の専門家)でなくても交換できるようした。「サクソフォンやクラリネットのようにリペアマンに任せないとメンテナンスが無理なものは、コストがかかります。メンテナンスコストの高さは、楽器を始めるハードルになるものなので、商品企画段階からメンテナンスコストがかからないものを目指しました」と中島氏は振り返る。
こうした過程を経て完成した「Venova」だったが、ヤマハはこれまで、トッププロのための最高の楽器を製造・販売してきた会社。社内では見かけが斬新すぎる上に、低価格・メンテナンス性向上のために音程や吹奏感に弊害が出た「Venova」を目の当たりにした時、発売するかどうか賛否両論が巻き起こった。
「もっと自由に、もっと気軽に遊んでもらう体験を提供することを主眼に置いた楽器なので、どうがんばっても既存のクラリネットやサクソフォンなどに比べ音程や吹奏感が劣る点についてはあきらめざるを得ません。これまで大切にしてきた、トッププロのための最高の楽器をつくり、販売するということよりも利便性や価格を第一に考えたことから、発売するかどうかについては議論になりました」と中島氏。ネガティブな印象を持つ人もいたことから、実際に演奏するなどして「Venova」の利用シーンのイメージなどを共有することに注力し、社内の理解を得ていった。
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