土肥: 1905年、神戸で創業したドンクは、その60年後にフランスパンの販売をスタートしました。65年に何があったのかなあと思って調べたところ、プロ野球第1回ドラフト会議が開かれたり、若者の間でアイビールック(米国東部の名門大学をイメージしたファッション)が流行したり。そんな状況のなかでフランスパンを販売したわけですが、消費者の反響はどうだったのでしょうか?
佐藤: 65年に東京国際見本市が開かれて、そこで当社がフランスパンの製造を担当しました。見本市終了後、フランス製の石窯オーブンを引き取って、神戸の三宮に専用工場をつくりました。フランスのパン職人に技術指導を受けて、フランスパンを販売したものの、消費者からは不評でして(涙)。当時の日本人にとって、パンと言えば「やわらかいモノ」だったのですが、フランスパンは「かたい」。ということもあって、「皮が固くて食べられない」「食べ方がよく分からない」「歯がかけてしまった」といった声がたくさん寄せられました。
翌66年、東京の青山でもフランスパンを発売することに。流行の最先端の街なので、大ヒットするのでは? と考えていたのですが、残念ながらあまり売れなくて。日本人の嗜好に合う“やわらかいパン”はどうか。配合を変えてみてはどうか。といった選択をしてもよかったのかもしれませんが、会社はそのようなことをしませんでした。オリジナルの配合をいじってまで、日本人に合わせることはない。フランスで販売していて、現地の人が食べている本物のパンを定着させるために、製造を続けました。
パリジャンの特徴は直径が大きく、太くて長い
土肥: 理念は素晴らしいと思いますが、あまり売れなかったんですよね。どのように対応していたのでしょうか?
佐藤: つくってもつくっても売れないので、「じゃあ、翌日に販売すればいいのでは?」と思われたかもしれませんが、それはしませんでした。「フランスパンはつくったその日に売る。その日に食べてもらう」といった方針があったので。とはいえそのまま破棄していると業績が厳しくなるので、売れなかった商品はスーパーなどに卸して、なんとかしのいでいました。
土肥: やわらかいご飯を食べ慣れている日本人に、かたいご飯を出して、「さあ、どうぞ。買いませんか?」と言っても、なかなか手を出してくれませんよね。ましてや見たこともないパンなので、どうやって食べればいいのか分からない。人間は新しい食べ物を見ると、どうしても保守的になる傾向があるので、すぐに売れるのは難しいですよね。どういったきっかけで、消費者に受け入れられるようになったのでしょうか?
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