フランスに何度も足を運んでいるパン職人の佐藤広樹さん
土肥: フランスパンを発売してから50年以上が経っていますが、その間にレシピは変えているのでしょうか?
佐藤: いえ、変えていません。水の量を1〜2%変えることはあるのですが、それは小麦粉の状態などによって変えているだけ。なぜ変えていないかというと、フランスパンは特別なモノではなく、日常のモノだから。
当社のフランスパンを手にして、一口目に「うわーっ、ものすごくおいしい!」と感じることはないと思うんですよね。なぜかというと、そういう味付けをしていないから。フランスパンは日常食なので、シンプルな味でなければいけません。毎日食べても飽きないモノを目指しているので、50年以上前につくったレシピ(本場の味)をいまも変えていません。
土肥: 「熱烈中華食堂 日高屋」を運営するハイデイ日高の神田正会長は、とある報道番組で自社のラーメンの味についてこのように言っていました。「10人食べて、7人くらいがおいしいと言ってくれればありがたい」と。ものすごくおいしいラーメンではなく、毎日食べても飽きない味にこだわっているそうです。この考え方と、フランスパンに対する考え方が似ていますよね。
佐藤: 私は30年以上前からフランスパンをつくり続けていますが、自分がつくって「これは最高!」と思えたのは10回ほどしかありません。もちろん、それ以外のパンがダメという話でありません。当社の基準はクリアーしているのですが、自分のなかで納得して「最高」と呼べるモノをつくるのはそれほど難しい。
土肥: 同じ配合でつくっても、同じ温度でつくっても、同じ水を使っていても、「これ最高だよね」と呼べるモノをつくるのは難しいのですか?
佐藤: 同じモノを次の日にもできるんじゃないかと思って、つくってみるのですが、再現できたことはありません。それほどフランスパンをつくることは奥が深い。ただ、今日よりも明日、明日よりも明後日においしいモノをつくれるのではないか、と考えながら手を動かす。そこにこの仕事のおもしろさがあるのかもしれません。
(終わり)
ITmedia ビジネスオンラインの連載をまとめた書籍『バカ売れ法則大全』(行列研究所/SBクリエイティブ)が発売されました。本連載「水曜インタビュー劇場」の人気記事をピックアップして、大幅に加筆。また弊誌では掲載していない記事もご紹介しています。また、本連載をまとめた『ササる戦略』(三才ブックス)も発売していますので、合わせてどうぞ。
さらに、水曜インタビュー劇場のMCを務める土肥義則のCDが発売されました。「全国経営者セミナー」での講演を収録していますので、ぜひビジネスのヒントに!
- 作業服のワークマンが、新たな市場をつくりそうな理由
作業服などを販売している「ワークマン」が、ららぽーとに出店する。ワークマンといえば建設現場で働く人が利用しているイメージが強いが、ショッピングセンターでどのような店舗を展開するのか。同社の担当者に勝算を聞いた。
- 「男女混合フロア」のあるカプセルホテルが、稼働率90%の理由
渋谷駅から徒歩5分ほどのところに、ちょっと変わったカプセルホテルが誕生した。その名は「The Millennials Shibuya」。カプセルホテルといえば安全性などを理由に、男女別フロアを設けるところが多いが、ここは違う。あえて「男女混合フロア」を取り入れているのだ。その狙いは……。
- 売り場を減らしたのに、なぜ崎陽軒のシウマイはバカ売れしているのか
東京や新横浜で新幹線に乗ると、車内でビールを飲みながら「シウマイ」を食べているサラリーマンをよく目にする。崎陽軒の「シウマイ弁当」だ。駅弁市場は縮小しているのに、なぜシウマイ弁当は売れているのか。その理由を、同社の担当者に聞いたところ……。
- 6畳弱の狭い物件に、住みたい人が殺到している理由
6畳弱の狭い物件が人気を集めていることをご存じだろうか。物件名は「QUQURI(ククリ)」。運営をしているピリタスの社長に、その理由を聞いたところ……。
- なぜ「スーツみたいな作業着」をつくって、しかも売れているのか
スーツのような作業着「WORK WEAR SUIT(ワークウェアスーツ)」が売れている。製造しているのはアパレルメーカーでもなく、作業着メーカーでもない。水道工事などを行っている会社がつくったわけだが、なぜこのような商品を開発したのか。その狙いを聞いたところ……。
- コオロギを食べ続けて、どんなことが分かってきたのか
コオロギやハチの幼虫などを食べる――。「虫を口の中に入れるなんて絶対に嫌」という人にはちょっと信じられないかもしれないが、昆虫を使っていかにおいしい料理をつくることができるのか、といったことを研究している人がいる。本人にインタビューした。
- 700台のカメラを設置して、スーパーの「トライアル」は何を分析しているのか
スーパーマーケットの「トライアル」が、近未来を感じさせられる店舗を構えた。店内には700台のカメラを設置して、人の動きや商品棚をウォッチしているという。最先端の技術を導入して、どんなことが分かってきたのか。
- えっ、CDプレーヤーが売れている? エスキュービズムの戦略が面白い
ポータブルタイプのCDプレーヤー市場が面白いことになっている。市場が縮小していくなかで、新興メーカーのエスキュービズムが発売したところ、ある層を中心に売れているのだ。「CDプレーヤーなんてオワコンでしょ」と言われているなかで、どういった人たちが購入しているのか。
- 殻を捨てた「ザク」が、20万個以上売れている秘密
バンダイが発売しているガシャポン「ザク」が売れている。機動戦士ガンダムシリーズに登場するザクの頭部を再現したものだが、最大の特徴はサイズ。カプセルよりも大きいこのアイテムはどのように開発したのか。担当者に聞いた。
- なぜ地図で「浅草寺」を真ん中にしてはいけないのか
地図を作成している編集者に、2枚の地図を見せてもらった。1枚は浅草寺が真ん中に位置していて、もう1枚は浅草寺が北のほうにある。さて、実際に地図に掲載されているのは、どちらなのか。答えを聞いたところ、予想外の結果に!?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.