佐藤: その昔は「先輩の背中を見て、学べ」といった感じだったのですが、いまはそういうわけにはいきません。短い時間で職人を育てなければいけないのですが、それでもすぐに一人前になることは難しい。店のチーフになるには、短い人で5年ほど、平均で7〜8年ほどかかります。
土肥: なんと、そんなに!
佐藤: 3〜4年ほど働いていれば、ひと通りのことはできるんですよね。見た目もそれなりのモノができる。ただ、裏付けが説明できないんですよね。
土肥: どういう意味でしょうか?
佐藤: 良いフランスパンができたとき、なぜそのようなパンをつくることができたのか。悪いフランスパンができたとき、なぜそのようなパンができてしまったのか。経験を積んだ人でなければ、原因を説明することができないんですよね。
もちろん研修は何度も行っていて、「○○をすれば○○になる」といった感じで説明はしているのですが、パン職人の世界は自分で経験してみないと分からないことがたくさんあるんです。教わったこと、自分がやったこと、そのことが一致して説明できるのに、7〜8年ほどかかるわけです。
1954年、フランスパンの神様と呼ばれているレイモン・カルヴェル教授は「良いフランスパン」の条件をこのように言いました。(1)外皮は明るい黄金色でよく焼かれていること。手で押せばパリパリと音がはじけ、口に入れるとカリカリしていること(2)中身は、クリームホワイト色をしていて、大・中・小の気泡が分散していること(3)クープと呼ばれる割れ目がくっきり割れていること。この3つがそろったフランスパンをつくるのには、どうしても長い年月が必要になるんですよね。
土肥: 気泡は大・中・小が分散していなければいけないなんて、知りませんでした。大ばかりだと、本当は「良いフランスパンじゃないな」と気付かなければいけないのに、知らない人は「食べるところが少ないじゃないか」とクレームをつけそうですね。
佐藤: 発売当初、そういった苦情がありました。気泡と穴の違いが分からずに、「穴ばかりじゃないか」といった声が多かったそうです。
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