リアルで、可愛くて、面白い。インスタグラムなどのSNSでも拡散がしやすく、カピバラの落し物は瞬く間に超グソクムシ煎餅を上回るヒット商品となった。
「基本的に竹島水族館でしか買えないので、お土産として家族や友達に渡して『何、これ!?』と盛り上がっているようです。みなさんのおかげで、今までにないような楽しいものを作ることができました」
小林さんは富田さんたちへの感謝の言葉を繰り返す。外部のスタッフを「下請け業者」と見下すのではなく、かといって「先生」と見上げるのでもなく、水族館にはない力を提供してくれる大事なビジネスパートナーとして位置付けているのだ。童庵の安藤さんは次のように証言する。
「小林さんは意外と頑固だけど、周囲にすごく気を遣ってくれる人です。この夏、お菓子の生産工場のミスでお土産がしばらく欠品をしてしまったことがありました。一番、お客さんが入る夏休み期間中でもあり、責任を追及しなければならないところです。でも、小林さんは『それはやめてください。みなさんの協力で竹島水族館は成り立っているからです。超グソクムシ煎餅とカピバラの落し物が欠品をしたおかげで、超ウツボサブレの売れ行きが良くなりました』と言ってくれました」
各分野のプロたちが対等な関係を結び、楽しみながら知恵とセンスを出し合う。手に取った客が喜ぶ様子を思い浮かべながら、細部にも手を抜かずに「今までにないもの」を製作する――。とぼけた顔で愛されるカピバラ土産の中には、チョコ菓子だけではなくヒット商品を生み出すヒントが詰まっているのだ。
大宮冬洋(おおみや とうよう)
1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している(2018年7月現在で通算100回)。著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる〜晩婚時代の幸せのつかみ方〜』(講談社+α新書)などがある。 公式Webサイト https://omiyatoyo.com
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