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残っても地獄、辞めても地獄……多くの日本人が悩む働き方の現実ここが変だよ、日本の「働き方改革」(4/4 ページ)

» 2018年12月06日 06時30分 公開
[伊藤慎介ITmedia]
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消費は投票

 既得権益という意味では、「消費者」としての行動結果を忘れて、「労働者」としての自分の既得権益だけを守りたいという矛盾も見直す必要がある。

 講義をしている大学の学生には「消費は投票だ」と教えているが、消費者として毎日数多くの商品やサービスを自由に選択していることは、その「投票結果」が企業や労働者に大きな影響を与えていることを理解しなければならない。外国食材を多く使った大手チェーンの弁当を買えば、そのお金は外国の生産者と大手チェーンに流れるし、国産食材を使った地元商店の弁当を買えば、そのお金は国内の生産者と地元商店に流れるのだ。

 ということは、消費者として安いものばかり買おうとすると、デフレが進んで労働者の賃金は下げざるを得なくなるし、多くの日本の消費者が外国の商品やサービスにお金を流せば流すほど、日本企業の売り上げや日本人の雇用、所得は減っていくことになる。一方で、本当に良いものに対して適正な対価を払う消費者が増えればその産業は成長し、こだわりをもって良質な商品やサービスを提供している人の雇用や所得は守られていくのだ。

 働き方を考える上で非常に参考になった事例として、以前にテレビで見た地方の中小企業の話がある。会社の利益は全て社員に還元し、内部留保がゼロの経営をしているというのだ。では、どうやって新規投資をするかというと、社員全員が投資家の役割を果たし、必要となる新規投資額をクラウドファンディングのような形で募集するという。また、社員の給与は会社全体の業績と完全に連動しており、そこに「従業員」としての貢献度と「投資家」としての貢献度が合算されて決まるそうだ。

 国が前提としている会社のあり方や働き方とは大きく異なるが、会社を自分事としてとらえることができて消費者に高い自由度を提供できるという意味で、今の時代にふさわしい働き方ではないかと思う。商品やサービスを多くのお客さんが選んでくれれば、その分だけ会社の売り上げは増える。会社の売り上げに貢献すればその分だけチームや個人の収入が増える。しかし、売り上げや貢献度が下がれば収入も減ってしまうという仕組みだ。そして重要なのは、頑張るわけでもリスクをとるわけでもないのに既得権益があるだけという「他人事」の人に甘い汁を吸わせないようにすることだ。

 こうやって本来の資本主義に戻していかなければ、日本はいつまでも低い生産性、低い経済成長、高い社会不安という状態から抜け出せないのではないだろうか。(次回に続く)

著者プロフィール

伊藤慎介(いとう しんすけ)

株式会社rimOnO 代表取締役社長

1999年に旧通商産業省(経済産業省)に入省し、自動車、IT、エレクトロニクス、航空機などの分野で複数の国家プロジェクトに携わる。2014年に退官し、同年9月に工業デザイナーと共に超小型電気自動車のベンチャー企業、株式会社rimOnOを設立。2016年5月に布製ボディの超小型電気自動車”rimOnO Prototype 01”を発表。現在は、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の推進などモビリティ分野のイノベーション活動に従事。KPMGモビリティ研究所 アドバイザー、あずさ監査法人 総合研究所 顧問、ミズショー株式会社 社外取締役、亜細亜大学 都市創造学部都市創造学科 講師などを兼務。


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