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ジオンの国力増強策から我々が学ぶこと元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(6/6 ページ)

» 2018年12月19日 06時30分 公開
[鈴木卓実ITmedia]
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日本の給水車が襲われなったワケ

 文化はときに経済力や軍事力を代替する。日本がイラク・サマーワで行ったODAによる給水事業では、キャプテン翼が描かれた給水車が使用された。活動中、給水車が襲われることはなかったと伝えられている。2006年に麻生太郎氏が行った街頭演説(秋葉原のオタクの皆さん演説)や、江端康行氏による在サマーワ外務省事務所からの報告に、キャプテン翼を使うに至った経緯がある。ひとえにキャプテン翼が現地で愛されていたからだ。

 もし、重装備の部隊で護衛するといった軍事力や、反政府・反国連勢力に金品を渡して給水車を攻撃対象から外すといった経済力を用いた場合は、より費用がかさんでいただろうし、そこまでしても、給水車が無事だった保証はない。

 文化は絶対値ではなく、相対的な位置関係で評価されることがある。特に、マンガやアニメ、ゲームといったコンテンツの消費は可処分所得(使えるお金)だけではなく、可処分時間(使える時間)に大きく左右されるため、2番では駄目だ。昨今、テンセントなど中国のITガリバー企業の資本投下により、中国製コンテンツのクオリティが急速に向上している。

 日本への外国人留学生には、日本に興味を持ったきっかけがマンガ・アニメ・ゲーム(最近ではラノベ)であることが多い。歴史ではなく“今の日本”を愛してくれる親日派であり、そして、安全保障にさえ影響する可能性がある(留学生には母国で指導的な立場に就く方もいる)。

 軍事力・経済力を代替しうる日本のコンテンツは、今後も評価を維持していけるのか。もし、維持できないのであれば、それは、国力衰退にほかならないのではないだろうか。

著者プロフィール

鈴木卓実(すずき・たくみ)

たくみ総合研究所・代表。エコノミスト、睡眠健康指導士。ガンダムと同じ年齢(1979年生まれ)。新潟生まれ仙台育ち。仙台育英学園高等学校出身。地元での仮面浪人を経て、慶應義塾大学総合政策学部を卒業。2003年、日本銀行に入行後は、産業調査や金融機関モニタリング、統計作成等に従事。2018年より現職。経済家庭教師や各種セミナー(個人向け、企業向け)、経済・金融や健康リテラシー向上のための執筆、アドバイザーなどを通じて情報発信を行う。楽天証券トウシルにて「数字でわかる。経済ことはじめ」、東洋経済オンラインにて「あの統計の裏側」を連載。


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