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世のために生きたい トップ営業マンの地位を捨てて起業するも3度の倒産危機、そこから漂着した世界とは?フルカイテン・瀬川直寛社長(3/6 ページ)

» 2019年03月11日 06時45分 公開
[伏見学ITmedia]

仕入れの発注数に問題あり

 この試練をクリアしたことで、「商品を不良在庫化しても大丈夫だ」と瀬川さんは自信を深めた。

 在庫は減らせるのであれば、売り上げアップのためにもっと商品の仕入れを強化しても問題ないだろうと判断し、仕入れの数を従来の倍に増やした。想定通り、売り上げはうなぎのぼりで、瀬川さんは大きな手応えを感じたのである。

 1年ほど経ち、異変が起きる。仕入れの発注をし過ぎていて、メーカーに対する支払い余力がなくなってしまったのだ。「売り上げは伸びていたのですが、支払い余力をまかなえるほどの伸びではないことに気付かなかったのです」と瀬川さんは振り替える。15年冬、2度目の倒産の危機である。

 瀬川さんはまたしても一人考え込み、原因を解明しようとする。どうすれば仕入れの数を最適にできるのか……。このときもいろいろなグラフを描き、商品の注文が時系列でどう変化しているかなどを眺めていた。そして気付いたのが、商品の売れ方には必ず変動があるのに、その変動をまったく考慮せずに仕入れをしていたということだ。

 「在庫管理の方法に『発注点』というものがあります。例えば、ある商品の在庫が10個まで減ったら、追加で20個仕入れるといったルールを決めて自動発注するやり方です。現在も多くの会社で行われており、当時は私もそうしていました。しかし、発注点が固定ということは、その商品がずっと同じペースで売れ続ける前提に立っているのです。実際にはそんなことはないですよね。これが間違いだったのです」

 では、どうすればいいのか? 需要を予測して、仕入れのタイミング時に、今ある在庫を見ながら発注点を変動させることで、商品の欠品リスクも売れ残るリスクも下がると瀬川さんは考えた。まさしくこうした作業が得意なのは人工知能(AI)であるが、いかんせんそのソースコードを書く時間がないため、不良在庫の判定をしたときと同様、移動平均データを使って、最適な仕入れ数を計4000点の商品ごとに導き出すロジックを独自で作った。

 このシステムこそが、現在同社の主力事業である在庫問題解決サービス「FULL KAITEN」の原型なのだという。

 「仕入れでトップラインを伸ばしていくことと、在庫が増えすぎないように適正化していくことの2つを両立するのは本当に難しいのです。どの会社も苦労しています。それを解決したことで、ベビー服の事業は年間で商品(在庫)を17回転できるようになりました。一般的に中小のアパレルメーカーだと5〜6回転程度なので、これは驚異的な数字です」

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