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インタビュー
» 2019年03月11日 06時45分 公開

フルカイテン・瀬川直寛社長:世のために生きたい トップ営業マンの地位を捨てて起業するも3度の倒産危機、そこから漂着した世界とは? (1/6)

世の中の人たちにとって役に立つ仕事がしたい。そう思って起業した瀬川直寛さんは3度の倒産危機に直面した。しかし、その苦境から新たな事業の種が生まれたのだった……。

[伏見学,ITmedia]

 今、自分がやっている仕事は、本当に世の中の役に立っているのだろうか――。

 大阪市でフルカイテンという会社を営む瀬川直寛さん(42歳)は社会人になってから10年以上も、事あるごとにそのことが頭の中に浮かんできては、モヤモヤとした気持ちになった。

 数学と物理が好きで、小さいときからどんなことに対しても理由を探したがる癖があった瀬川さんは、高校時代に見たテレビドラマ「振り返れば奴がいる」の影響を受け、「自分も人助けをしたい」と医者の道を志す。しかしながら大学受験で医学部はすべて落ちてしまい、慶應義塾大学理工学部に入学した。在学中は「これが何の役に立つのかまったく分からない」と思いながら天然ガスの研究をしていたという。

 卒業後は営業の仕事がしたくて外資IT企業に入社。売りまくる営業マンとしてすぐに頭角を現した。営業スタイルはガツガツいくような熱血型ではなく、淡々と顧客と対話するロジカル型だ。

 「理系だったので、営業のストーリーを理屈っぽく考えていました。お客さんが今何を考えているのか、それに対してこういうことを言ったら、こう反応するのではと、枝分かれしたチャートをノートにびっしり書き込んで準備をしました。if文だらけの営業活動でしたね(笑)」

フルカイテンの瀬川直寛社長 フルカイテンの瀬川直寛社長

 仮説、検証を繰り返すような営業をするうちに、いつの間にかほとんどの商談が今後どういう方向に進んでいくのかが手に取るように分かるようになってきたという。

 3年ほど勤めて、会社の上司が作ったベンチャー企業に転職し、そこで約4年間、トップセールスマンとして経営の屋台骨を支える。その後、ゼロスタート(現ZETA)の創業時に1人目の営業社員として入社。そして、地元・大阪に戻ってシナジーマーケティングに入った。ここでも営業で大きな成果を出したため、新規事業の部門長に抜擢された。どの会社でも高いパフォーマンスを発揮する優秀なビジネスパーソンとして、周囲からは順風満帆なキャリアを歩んでいるかのように見えた。

 しかし、冒頭で述べたように瀬川さんは葛藤していた。自分の扱っている商品やサービスが、果たして本当に社会の役に立っているのかが疑問だったのだ。年を重ねるごとにその思いは強くなっていった。

 そんなある日、35歳になっていた瀬川さんは一念発起する。「世の中の人たちに役立つと思える仕事をしよう!」と会社を辞めて起業したのだ。2012年5月のことである。

 「常に葛藤はありましたが、給料をいただいているわけですから割り切って仕事をしていました。ただ、35歳になったとき、自分が元気な体で今のように働けるのはあと何年あるのかなという考えが頭をよぎったのです。モヤモヤした気持ちを抱えたまま、本当に役に立っているか分からない仕事に時間を使うのがもったいないと痛感しました」

 では、世の中の人々の役に立つ仕事とは何か? 瀬川さんが始めた事業は、ベビー服を取り扱うECサイトだった。ちょうどそのころ瀬川さん夫婦に第一子が生まれたばかりで、まさに自分たちが日頃困っていたことの解決につながるという確信があったからだ。

 「経験のある方なら分かると思いますが、幼い子どもを連れて買い物に行くのは大変ですよね。特にベビー服は店に行っても気に入ったものがなく、何軒か回ってようやく見つけたと思ったらサイズがなかったりと……。私たちも買わずに帰ってきたことが何度もありました。きっと子どもがいるほかの人たちも困っているはずで、それを解決することが世の中に役立つと思ったのです」

 また当時、メーカーが運営するECサイトはあったものの、複数のメーカーやブランドを扱うベビー服専門のECサイトはなかった。本当はもっといろいろな服をわが子に着せてあげたいのに、それが叶わない親は世の中にたくさんいたのだ。

幼少期の瀬川さん。地元・奈良の奈良公園にて 幼少期の瀬川さん。地元・奈良の奈良公園にて

 そこで瀬川さんが立ち上げたのが「べびちゅ(Babychu)」というサイトだ。オープンから半年足らずでFacebookページのファン数が数万人に上るなど、多くの人たちに支持された。特に母親からのニーズが大きかった。販売するブランドもどんどん増えていき、最終的には100を超えた。

 「これでやっと世の中のために働くことができる」。瀬川さんは喜びに満ち溢れた気持ちで好スタートを切ったのである。しかし、その後、3度の倒産の危機が訪れることになるとは、そのときには夢にも思っていなかった。

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