松戸市にあるパン屋で、なぜお客は1800円も使うのか水曜インタビュー劇場(焼きたて公演)(2/6 ページ)

» 2019年09月11日 08時00分 公開
[土肥義則ITmedia]

「スナック」になったのね

土肥: ワタシの知り合いから「パン好きの間で『聖地』と呼ばれている店があるんだよ。一度、取材してみたら?」といったことを聞いて、やって来ました。常磐線のJR北小金駅からクルマを10分ほど走らせると、店が見えてきました。ですが、「ベーカリー」とか「パン」といった文言がないので、初めて来た人は「ここってパン屋なの?」と思われる人も多いのではないでしょうか?(失礼)

店内に300種類ほどのパンが並んでいる

伊原: もともと父がパン屋を経営していて、僕は2代目なんですよね。2000年に引き継いだときに店名を「Zopf」に変えて、外観も変えました。以前の店舗はガラス張りになっていたので、外を歩いている人から商品を見ることができました。「メロンパンが並んでいるな」「アンパンが売っているな」と分かったのですが、「外から見えないデザインはどうかなあ」と考えたんですよね。

 当時、このようなデザインの店はあまりなかったので、設計担当の人から「商品が見えない店をつくっても、うまくいかないですよ」と言われました。

土肥: なんと、それはひどい。

伊原: ただ、その担当者も悪気があって言ったわけではありません。ガラス張りではないパン屋はほとんどなかったので、「このままではうまくいかない。お客さんに分かりやすいデザインのほうがいいですよ」といったアドバイスでした。後日、店の遠くを歩いている人でも、パッと見てパン屋であることが分かるデザインを提案してくれました。ガラス張りになっていて、パンがズラリと並んでいることが分かるといった外観ですね。

土肥: それでも、外から商品が見えないデザインにしました。なぜ、そこまでこだわったのでしょうか?

伊原: この店は西側を向いていて、西日が強いから。ただ、それだけ(笑)。日が当たり続けていると、パンにとってあまりよくないんですよね。西日が強いときにはカーテンを下ろすなどして対応することもできますが、それだと外を歩く人からパンを見ることができません。であれば、いっそのことパンを隠したデザインにしてしまえと思ったんです。

 で、店は完成。当時、お客さんからどのような反応があったのか。「あれ? パン屋さん、つぶれたの?」「スナックになったのね」といった声がたくさんありました(涙)。

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