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「不透明な社内評価」にNO! 報酬は「市場価値」で決める――ベルフェイス社長が人事制度に大なたを振るった理由(4/5 ページ)

» 2019年11月13日 08時00分 公開
[後藤祥子ITmedia]

ベルフェイスの人事制度が斬新かつ本質的な3つの理由

田中: ベルフェイスの人事制度を見たときに、報酬制度が市場価値と連動していて面白いのはもちろんですが、経営トップである中島社長の人事制度に対する向き合い方にとても共感しています。

 その上で、長年、人事を担当してきた者として、ベルフェイスの人事制度が斬新かつ本質的だと思う点が3つあるんです。

 1つは、人事制度の運用が「福利厚生」につながっている点です。この人事制度を通じて、社員自身が仕事やキャリアについて深く考えるとともに、それを表現する力がつくし、何より市場原理にもとづいた査定が受けられる。それが価値になって本人に返ってくるというのは、まさに社員にとっては「福利厚生」そのものだと思うのです。

 2つ目は、人事制度全体に対する説明を社長自らが行い、外部に向かって経営メッセージを発信することで、優秀な外部人材に対する「採用広報」につなげている点です。

これは、人材獲得競争が激化している現代において極めて重要な”EVP(Employee Value Proposition)”の1つの模範的な事例といえるのではないでしょうか。

 3つ目が、人事制度を運用していくこと自体が「人材育成機会」となっている点です。自社のバリューを評価に組み込み、360度評価により全社員が評価されるだけでなく「評価をする側にも回る」ことで、全員が「ベルフェイスの価値観」を自分なりに解釈し、自身の言葉で他人に説明するので、バリューに対する浸透度が極めて高まる仕掛けになっています。

 この3点は、自分でも人事制度の担当者としていつか実現したいと思っていながら、まだできていないことだったので、それを企業のトップ自らが考え、実践しているのは素晴らしいことだと思いました。

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 人事制度は、社員にとっては「仕組みであり、ルールであり、従うもの」みたいな位置付けであり、うさん臭いとか、恐れ多いとかいう存在になりがちなのですが、それを「社員に利益を与えるものにする」というのは、なかなかできないことです。

 人事制度をつくろうとすると、どうしてもテクニックや仕組みの精緻化などの「ハード面」を重視しがちなのですが、実は人事制度の成否を分けるのは運用という「ソフト面」なんですね。そこを中島社長自身が理解していて、「シンプルで分かりやすい運用」をイメージした制度設計にしている点も興味深いです。評価を5段階じゃなくて4段階にして「どっちつかずの判断」をなくすとか、加算・減算を5%という「キリのいい数字」で刻むとか、制度設計の一つ一つにシンプルさに対するこだわりを感じます。この制度の作り方を見れば見るほど、中島社長自身のバリューに対するこだわりや、カスタマーファーストに対する「有言実行性」を感じますね。

中島: ありがとうございます。評価を4段階にしたのは、10段階でうまくいかなかったからなんです。10段階で評価すると、「分からないから取りあえず5をつける」といった、“意思決定を放棄するようなこと”が起こるんです。4段階にすると中間がないから、評価がどちらに振れているのかを選ばざるを得なくなります。

 6人が360度評価するバリューについても、評価者6人をどう選ぶか、上長の評価の比重をどうするかは、相当、悩みましたね。上長の評価は結局、比重を2倍にしました。その理由は、われわれはまだGoogleみたいなフラットな組織というよりは、トップダウンで物事を進めなければならないこともある段階の会社なので、評価の比重も全員が平等じゃなくていいということです。

 評価者6人の選定については、当初は上長には見えていないバリューがあるかもしれないと思って、6人のうち2人を評価される本人が選べるようにしていました。しかし、そうするとどうしても、“高い評価をしてくれそうな人ばかり”を選びがちになる上、違う部門の人では日々のディテールまでは分からないといった問題が起こったので、いろいろ考えた結果、基本的には上司が「最もリレーションが多く、客観的に評価してくれそうな人を選ぶ」ことにしました。

 試行錯誤の末にたどり着いた制度ではあるものの、今後も運用をしていく中で、より良い方法があれば積極的に取り入れていきたいと考えているので、PDCAを回し続けています。

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