クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ヤリスの向こうに見える福祉車両新時代池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/7 ページ)

» 2019年11月18日 07時20分 公開
[池田直渡ITmedia]

ウェルキャブシリーズではない福祉仕様

 従来からトヨタは、ウェルキャブシリーズと名付けた介護車両のシリーズをラインアップしていた。特にTNGA以降、介護車両へのコンバートに必要な構造要素はクルマの基礎設計に織り込まれるようになった。

現在世界で福祉車両において、すでに最先端にあるのがトヨタウェルキャブシリーズ

 それ以前は、出来上がったクルマをどう改造するかが出発点で、多くのケースであちこち切断したり溶接したりという重作業が加わる。それはクルマの衝突安全などへの影響が懸念される上、利用者の大きな費用負担を意味するものだった。

 TNGA以降、ポピュラーな改造のための仕様が、基礎モデルに組み込まれるようになり、コストと使い勝手が一気に向上した。

 それを今回のヤリスではまた一段推し進めたのである。背景には「ウェルキャブシリーズ」が福祉車両の代名詞的に有名になった結果、利用者によっては「福祉車両専用モデルの購入は大げさだ」と感じるようになったことがある。当人にまだ介護が必要という自覚がないのに、ディーラーでカタログの介護専用車両ページをドンと広げられては、居心地が悪い。

 業界側の話としてはこれまで、介護車両は型式認定を取得していなかった。つまり新車であっても1台ずつ持ち込んで検査を受けなくてはならない。そして、役所の通達によって、型式認定取得車とそれ以外を、カタログの同じページに載せるのはまかり成らんという指導もあった。その結果、介護車両はカタログの末尾にまとめて掲載するしかなく、それが軽微な障害を持つユーザーの精神的抵抗となって、利用促進を阻むことになっていたのだ。

足腰が弱っている高齢者人口に対して、回転シートの普及率はわずか1%しかない。これらのユーザーにはこれまでソリューションが用意されていなかった

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