連載
» 2019年11月22日 07時30分 公開

組織の生産性を上げる「楽しさ」の作り方:ビジネスパーソンに必要なのは「没頭力」 仕事にのめり込むための工夫は?

これからのビジネスにおいて、「創造性」が最も重要な経営資源であることを考えると、「没頭」できる環境をつくることは重要な課題です。

[塩見康史,ITmedia]

 こんにちは。スコラ・コンサルトのプロセスデザイナーの塩見康史です。私は組織開発コンサルティングに携わるとともに、「クラッシック音楽」の作曲家としても活動をしています。今回は、そんな私の芸術創作の経験も参考にしながら、ビジネスと創造性、創造における「没頭」の重要さ、などについて紹介します。

 私は、これからの時代、ビジネスパーソンに最も必要な能力の1つは「没頭力」だと考えています。なぜなら、いまやビジネスの成功の鍵は「創造性」であり、創造性は「没頭」というプロセスを通して発揮されるからです。

 インターネットを検索すれば、世界のほとんどの情報は、いつでも誰でも簡単に手に入ります。誰もがアクセスできる既知の情報の価値は下がります。既知の情報の統計的な処理は人工知能「AI」の得意分野であり、人間がそこで価値を生み出すことは難しくなるでしょう。

 一方で、「既知の情報を創発的に組み合わせて新しいものを生み出す」「全く新しいアイデアを発想する」などの、人間ならではの創造性の発揮は、今後ますます重要になります。

 創造的な仕事には、「没頭」するというプロセスが不可欠です。従って、これからの組織では、メンバーがいかに「没頭」できる環境をつくるかがマネジメントの大きな課題となるのです。

創造性が経営資源になる時代に必要な能力は「没頭力」(写真提供:ゲッティイメージズ)

「没頭」の2つの要素:「未知」と「好き」

 「没頭」には、2つの側面があります。「未知」と「好き」です。

 人は、「未知」なことに取り組むとき、「没頭」状態になりやすいのです。「未知」なことは恐ろしくもありますが、同時に「未知」に潜む可能性に人は憧れや希望を抱きます。「未知」を探検するときに感じる、何が起こるか分からない緊張感とワクワク感が、「没頭」を引き起こします。逆に「既知」のことがらに対しては、「没頭」する必要はなく、決まった手順に従って、効率的にこなしていけばよいのです。

 また、「好き」という気持ちは、「没頭」と密接な関係があります。嫌いなこと、人からやらされている事をしているときは時間の進みが遅く、苦痛を感じるのに、趣味などの「好き」なことをしているときは、我を忘れ、時間があっという間に過ぎていく、というようなことは誰もが経験しているのではないでしょうか。

 「好き」なことに没頭しているときは、その行為自体が目的であり、喜びでもあります。

 私の経験でも、作曲をしているときは、深い「没頭」状態にあります。私は作曲に全ての時間を割くことはできないのですが、それでも創作の際は、人生をかけて、自分の全てを投入するような気概で取り組みますし、作曲という行為そのものから深い喜びを得ています。

「没頭」は人間を幸せにする

 「没頭」は、幸福の一要素であるといわれています。「没頭」している人は、表面的にはそれほど幸せそうに見えなかったり、逆に苦悩しているように見えることもありますが(私も作曲しているときは結構苦しいです)、内面では深い充実感と喜びを感じています。

 それは、「没頭」している行為が、まさにその人が人生において実現したい目的、手に入れたい喜び“そのもの”であるからです。通常、私たちは何か他のものを得るための手段として、働いたり、勉強したりすることに慣れています。受験に合格するために勉強する、健康増進のために運動をする、等。

 しかし、「没頭」においては、行為そのもの(勉強すること、運動すること)が喜びであり、目的です。ビジネスでは、報酬というと給与や昇進が思い浮かびますが、「没頭」できる仕事と出会い、「仕事そのもの=報酬」と感じることができれば、仕事を通して幸せになる人が増えてくるのではないかと思います。

「没頭」できる職場環境をつくろう

 ビジネスや仕事で、「没頭」をどのように実践していけばよいのでしょうか。まずはメンバー全員が仕事において、自分の「好き」なことができる状態に近づけていく必要があります。人は多様なので、「没頭」できること、「好き」なことは人によって違います。また組織メンバーも最初から自分は何が「好き」なのかが分かっていないこともあります。

 そこでまず重要なことは、社員が組織の中で、自分のやりたいことを探し、表明し、互いに認め合えるようにすることです。

 次に、「没頭」するために集中力を高め、維持することができるような環境をつくる必要があります。「没頭」できる環境は人によって大きく異なります。ある人は他者がいない静かな場所を好み、またある人は、喫茶店のような環境でないと「没頭」できないかもしれません。このような個人が望む多様なワークスタイルを認めて、柔軟にマネジメントをしていく必要があります。

 また、「没頭」は、「中断」や「干渉」によって妨げられやすい性質がありますので、上司や人からの管理が少なくなり、自己判断や裁量が大きくなるような自己管理(セルフ・マネジメント)型の働き方を推進していくとよいでしょう。

 最後に、多様な働き方をサポートできるような制度や仕組みの構築です。サイボウズでは、画一的な人事制度を廃して、「100人100通りの人事制度」を実践しています。例えば、遠隔地で在宅勤務、週3日勤務、午後から出社等、さまざまなスタイルで働くことが認められ、しかもチームワークを大切にして仕事をしています。

 このように「没頭」できる職場環境をつくろうとすると、画一的な管理を手放す不安や多様であることの複雑さや面倒くささに直面します。また、自社のワークスタイルを労働法等と整合させていくことに、創意工夫が必要かもしれません。

 しかし、これからのビジネスにおいて、「創造性」が最も重要な経営資源であることを考えると、「没頭」できる環境をつくることは、目先の難しさを超えて、将来へ向けて組織に大きな財産を蓄積していくことになるのです。

著者プロフィール・塩見康史(しおみ やすし)

 大企業の人事部門を経てスコラ・コンサルトに入社。組織開発、企業風土改革、戦略ワークショップなど、対話を通してチームで「新しい知」を創発するプロセスの支援を得意とする。

 クラッシック音楽の作曲家でもあり(2017年朝日作曲賞受賞)、芸術創造の実践経験を生かした「創造的思考トレーニング」にも取り組んでいる。


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