高齢者の自動車暴走事故はなぜ起きるのか ボルボの「世界的第一人者」に聞いた「ながら運転」の罰則強化など政府も本腰(2/2 ページ)

» 2019年12月11日 05時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]
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ボルボの運転支援技術とは

――ボルボでは現在どういった運転支援技術を実装しているのでしょうか。

 車線維持、標識認識、それから速度超過警告といった機能は既に実装されています。被害軽減という視点では、前方の歩行者やサイクリストを識別し、衝突の危険が生じた際に適切な回避操作が行われないと作動する自動ブレーキも実装しています。

――こうした機能に加え、今後は車内カメラが加わるということでしょうか。

 はい、2020年代前半に発売する新型車から順次導入予定です。これは画像解析機能を用いて、ドライバーの目の動きを車内カメラで追跡するというものです。既に外部のセンサーはさまざまな形で実装されているので、これと連動することで、例えば運転者が脇見運転をしているような状況が続くと警告を発したり、さらに周囲から危険が迫っていると感知した場合には、自動的にハンドルを操作したりブレーキをかけて安全な場所に停車させる機能も考えています。

 具体的なところでは、日本の場合は、交差点で右折する際に対向車の車線を横切っていかなければいけない危険な場面を迎えるので、車外のセンサーと車内カメラを連動させてより安全にしていく仕組み作りを進めていきたいと考えています。こうした機能は2020年の前半から搭載していく予定です。最初はオプションになるかと思いますが、今後標準装備にしていくつもりです。

phot 東京・北青山の「ボルボ スタジオ 青山」

――池袋の事故のように、ドライバーが運転するには危険な状態だと車が検知した場合、今後はどのように安全装置が働いていくものと考えられるでしょうか。

 今後に標準装備されていく「車内カメラの監視」がまさしくこれに該当します。池袋の事故は高齢ドライバーによって引き起こされた悲惨なものですが、若いドライバーでも運転中に急病を発症して、その結果、車が暴走して事故を起こすという事態も考えられるわけです。

 年齢を問わずあらゆる状況に対処するために、車内カメラによってドライバーの状態を監視するという目的があります。ドライバーに何か異常が発生したと車が判断した場合、運転支援機能で車を路肩に強制的に停車させます。そして「ボルボ・オン・コール」という既に実装されている通信機能と連動して、コールセンターにつないで向こうのオペレーターから「大丈夫ですか?」という問いかけをすることも可能です。そのまま救急車などの手配もできます。

――なるほど。こうした車内カメラによる運転支援は、他の自動車メーカーも追随していくと考えていますか。

 車内カメラについてはいくつかのメーカーも導入していくと思います。今お話しした例は緊急事態的な究極のケースともいえますが、カメラは運転している人を刺激する武器にも使えるんですよ。例えば居眠りを検知したときに警告音を発して刺激を与えたり、車線維持機能とリンクさせたりすることによって、車線を逸脱するような運転になっていることを運転者に知らせるような使い方もできます。必要なときには、速度を強制的に落とすこともできます。

phot ボルボ『S60』と映るヤン氏
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ボルボが見据える20年後の自動車

――ボルボとしては10年後20年後を見据えたとき、車はどのように変化していくと考えていますか。

 ボルボは自動運転に対し、技術的な目線で分けられている「レベル」を基準にした見方をしないことにしました。こうした自動運転は利用者目線が考えられるべきであって、運転者が車の機械を操作して自動運転にする「レベル3」の考え方では、ドライバーの安全を完全に担保できないからです。自動車を安全な乗りものとして再定義するには、(1)完全自動運転か、(2)運転支援の状態であるか、(3)完全自動運転と運転支援を切り替えている状態なのか、以上の3つに分けて考えるべきです。

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 ボルボは「完全自動運転」を目指していくために、検知技術の開発をより正確で安全なものにしていきたいと考えています。この検知技術は、特に車内カメラの例のように、運転者の行動の検知に重点が移っていきます。

 こうして完全自動運転技術が確立されていき、究極的には車は運転者なしで走れる乗りものになっていきます。ただ、そうなっても事故を起こすわけにはいきませんので、非常に高いレベルの信頼性が求められることは言うまでもありません。

 ただ、そうなったときでも、自動車は運転が可能なものである必要があります。自動運転で対応しきれないような複雑な状況においては、運転者の介在が必要となる場面がどうしても出てくると思います。こういう場面のためにも、ドライバーが自動運転と人間による運転の切り替えが安全にできるような仕組みも必要であり続けます。

phot 「360c」と呼ばれる未来の完全自動運転のEV
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