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「責任と権限の委譲」問題、どのようにすれば解決するのかケースで学ぶ(4/5 ページ)

» 2019年12月20日 08時00分 公開
[ITmedia]

変革の第一歩としての経営会議の刷新

 藤堂社長はある日、同じく企業経営者である友人に悩みを打ち明けた。「事業部制を引いて幹部に事業を任せようと思っているが、なかなか思うようには進んでいかない」と。

 「いきなりうまくはいかないのは当然だ。今までお前が全て意思決定してきた会社だろう。突然責任を持たされても、たいていの社員は困惑するだけだ。でも、その中でも必ず見込みのあるやつは一定数出てくるはずだ。それまで何度も会社の目指すビジョンを言い続けたり、自分がいつもどういう思考回路で意思決定しているのか、ちゃんと伝え続けないとダメだ。そうでないとまた逆戻りしてしまうぞ」

 友人から掛けられたその言葉に、自分が焦り過ぎていたことに気付かされた。そこで、まずは経営会議のあり方を見直すことにした。これまでの「役員会」を改め「幹部会」の形にし、役員しか参加できなかった会議に、部門の責任者クラスも参加できるようにしたのだ。その上で、その運営スタイルも大きく変えた。

 その初回には、藤堂社長から改めて将来ビジョンとIPOに向けた決意を伝え、だからこそ外部から幹部人財を向かい入れ、新しい血を加えてレベルアップを図っていきたいと考えていることを話した。さらには、幹部会では各部門に対する細かい指摘ではなく重点方針に対する期待とアドバイスのみに心がけ、今までのような幹部からの意見に対して否定的な発言も控えた。

 こうした変化に、遠藤の心境にも変化が現れ始めた。

 「今回の社長の決意は固い。IPO自体は自分たちにとってもポジティブな側面が大きい。だからこそ新たな目標に向けて一致団結してがんばりたい。今回のこの体制で確実にIPO準備を進めていけるよう、自分が新しい幹部メンバーとの緩衝材になっていかなくてはいけない」

 その後、遠藤は緩衝材としての役割を果たすべく、現場と外部から来た優秀な幹部との橋渡し役として奔走した。

 さらに藤堂社長の新たな取り組みは続いた。幹部会も定着してきた中で、「トップレビュー」というマネジメントスタイルを取り入れたのだ。トップレビューは月に1回行われる、社長と部門長の1対1によるミーティングだ。今期の戦略方針や事業計画の進捗を確認しながら、今取り組むべき課題は何かのすり合わせを行う場である。

 重要なのは、社長が指示命令を出す場ではない、ということだ。あくまでも部門長自らが現状を定量的、定性的に報告し、それをどう捉えどう改善していきたいと考えているかを相談することが基本となる。社長はあくまでも客観的にアドバイスする立場を貫き、部門長自身に意思決定をさせなくてはならない。

 「この3カ月で、KPIに設定してた半期の新規アカウント開拓目標の60%までクリアできています。新規の顧客開拓は順調です。一方で課題は……」

 最初は頼りなかった遠藤の報告や相談も、最近ではKPIに基づいた的確な報告と問題の抽出ができるようになり、議論すべきテーマにずれが生じにくくなった。

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