在庫はたくさんあるのに、なぜ“トイレットペーパー行列”ができたのかスピン経済の歩き方(6/7 ページ)

» 2020年03月03日 08時15分 公開
[窪田順生ITmedia]

「昭和型危機管理」は通用しない

 国民が不安で話をもっと聞きたい中で、安倍首相が質問をロクに受けずにサクサク会見を切り上げたと批判されているが、あれこそが「守り」に特化した典型的な「昭和の危機管理」である。中止の指示をしたという首相広報官も、国民からブーイングがくるのは分かっていた。が、あそこで厳しい質問を浴びたら失言をして炎上するかもしれないので、「答えない」で叩かれるほうがまだマシと判断したのだ。なるべくリスクを取らずに、その場をやり過ごしたい「昭和型危機管理」の発想だ。

 もちろん、このようなムシのいい危機管理は大失敗する。それをこれ以上ないほど分かりやすく世に示したのが、ダイヤモンド・プリンセス号だ。英国船籍だ、外国企業の船だ、狭い船内だ、と山ほど「制約」があるのだから、こちらがやれることが限られていることは分かっていた。そこで柔軟な判断をするのが危機管理であるはずが、とにかくリスクを取りたくない政府は、3600人を船内に閉じ込める、というカチカチに硬直した「守り」をして大コケしてしまう。

(出典:ロイター)

 日本人だけでも下船させる。あるいは希望者だけでも別の施設に移すなどいくらでも個別対応ができたが、「現実的ではない」「キャパが」「法的根拠は」など官僚の知識をフル回転させて言い訳をしている。リスクをとって「例外」をつくったら、誰かの責任問題になる。「責任」は政治家と官僚が一番嫌いな言葉だ。

 つまり、あの「船内隔離」というのは、3600人や国民の安全を優先して導き出された結論ではなく、政治家も官僚も誰も責任を追及されることなく、現行のシステムに基づいて「でも、一生懸命やりましたよ」と胸を張って言えるスキームということで選ばれたのに過ぎないのだ。

 政府内でも現場にいた人も「この感染対策はずさんだ」とうすうす感づいていた。しかし、誰も異を唱えられなかった。東條英機が作戦撤退を決断できなかったのと同じで、「みんな」に逆らうリスクを取りたくなかったのだ。

 旧日本軍の流れをくむ厚労省がかじ取りをすれば、このような典型的な「昭和型危機管理の失敗」をするのはある意味で分かりきっていたことなのだ。

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