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国交相発言はみっともない 新幹線の車椅子スペース、増やすための“一手”杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2020年03月06日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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通常の座席を畳めばいいじゃない

 長寿社会において、車椅子はもはや特殊な道具ではない。病気で短命に終わろうと、健康で長生きしようと、誰もが最後は車椅子のお世話になるだろう。車椅子は私たちの最後の乗りものといえる。今後、車椅子の利用者が増えることは間違いない。

 しかし、現状では車椅子利用者がごく少数であることも事実である。新幹線で言えば、繁忙期や時間帯によっては、歩行可能者であっても座席が足りない。どの列車にも等しく、乗るかどうか分からない車椅子対応席を用意しておくというのも非効率だ。

 ではどうすればいいか。私が国交大臣だったら「折り畳める普通座席を作れ」と号令をかけるだろう。普段は普通座席として使い、車椅子利用者が乗車するときは折り畳んで、床に埋め込むか、荷棚に乗せるか、多目的室に格納する。多目的室のある車両の半分から3分の1をこういう座席にする。これなら20人程度の車椅子利用者も同時に乗車できそうだ。

 はじめから座席を撤去した空間を用意するより、車椅子を折り畳んで荷物にするより、普段は座席、いざとなったら空間という、和室の座椅子のような普通座席を置けばいい。当然ながら普通座席としての乗り心地は悪くなるだろう。だから座席指定券の予約時にシートマップできちんと説明しておく。飛行機だって「非常口のそば(脱出時の介助義務)」「幼児優先席」「リクライニングできない」という条件の座席がある。しかし事前に告知しているから利用者は納得できる。料金を割り引くか、自由席にするかはソフトの問題として考えればいい。もっと飛躍して、畳敷きやカーペット席があっても面白いけれども今はそこまで広げないでおこう。

 いざとなったら折り畳める。そして乗り心地はなるべく他の座席に近づける。そんな都合の良い座席は作れるか。日本のモノづくりの技術があればきっとできる。鉄道車両メーカーは優秀だし、座席といえば、自動車のミニバンも参考になる。簡単な操作でフルフラットになり、くるりんと倒せば床面積が広がる。航空機のエコノミークラス席はとても軽そうだ。自動車業界、航空業界も国交省が管轄する仲間である。こうした業界横断の枠組みを作ることこそ政策の役目、リーダーシップはこういう場面で発揮してほしい。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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