それでもヴィッツよりマシになっているのは、リヤシートの居住性を少し犠牲にしたからだ。パワートレインがいじれないことを前提にしつつ、オフセットを減らす手法としては、運転席を後ろに下げる方法がある。ただしそれをやるとリヤシートのニールームが削られる。全長をどんどん大きくできるなら別だが、コンパクトカーには外寸の制約があるから、結局は配分の問題になってくる。
「ヤリスのリヤシートが狭い」とか「もっと実用性を」とかいう声は、気持ちとしては理解できるが、だからといって、ヴィッツと同じくらいまでオフセットがひどくなるのは断固反対である。リヤシートのスペースが広くなるのは素晴らしいが、それよりドライビングポジションは優先だ。だから今回のヤリスのパッケージは半分低評価、半分高評価である。
リヤシートのニールームは狭くなっているが、フロントシートを後方に下げたことにより運転席のオフセットはだいぶ改善されている
いうまでもなく、パワートレインのタイヤ位置は低評価、リヤシートのリソースをドラポジの改善に振り向けたことは高評価だ。
従来は、カタログに記載するリヤシートのニールームの寸法を最大化することに、多くのエンジニアが血道を上げていたのだが、TNGAの号令の下に、そのリソースの一部が運転環境改善に振り向けられたということだ。
欠点の2つ目は、床板の防音/制音だろう。このGA-Bプラットフォームだけでなく、プリウス/カローラ用のGA-Cプラットフォームもそうなので、最近のトヨタの傾向なのかもしれないが、もう少し静かになってもいい。防音や制音は、やり過ぎるとコストが上がるので塩梅が難しいが、コストをかけない範囲でももう少しできるのではないか。騒音は疲労につながるので、やっぱり「人間中心」で考えると看過できないのだ。
3つ目は、クルーズコントロールが全車速対応ではないこと。時速30キロ以下で切れてしまうので、高速道路の渋滞で使えない。今や軽自動車の一部でも全車速対応が付いているので、この設定はちょっと時代を見誤っている観がある。
さて欠点の羅列は以上である。あとは基本良い評価になる。
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