――トヨタからリーダークラスの人材を受け入れたことで、どのようなメリットがあると考えていますか。
稲川:H-IIAロケットなどこれまで国が開発してきたロケットは、技術的には頂点といえるレベルです。完成されていますし、信頼もあり、打ち上げの成功率も高いです。究極の世界が達成できているので、本当にすごいと思っています。だけど、すごいはずなのに国際競争力といった文脈や、世界のロケットと比べた途端に勝てないのです。
――なぜ勝てないのでしょうか。
稲川:その理由は歴史的な背景からきていると思います。以前は、宇宙産業は国が担っていました。アポロ計画が分かりやすい例ですよね。国が最先端のことに取り組んで、関連する産業を育成していました。ところが現在では、他の産業の方が伸びていて、そこから宇宙産業に技術などが還流されていく時代に変わっています。20年間、長く見れば30年くらいの間に少しずつ転換して、他の産業が引っ張るようになりました。
そういう文脈で言えば、特に日本はロケット産業の中だけで閉じこもっていたために、よくも悪くもH-IIAロケットがある種の極限のような状態になっているのではないでしょうか。
――貴社では、国が進めてきたロケット開発とは違うアプローチをしようと考えているということでしょうか。
稲川:私たちがやろうとしているのは、民間の宇宙事業です。他の産業のいいところを内部に取り込むことによって、国際競争に勝てるロケットを開発できると考えています。日本全体で見れば宇宙産業従事者は少なく、人材の確保は容易ではありません。ロケットは工業製品なので、ものづくりの十種競技、総合格闘技とたとえたりしますが、あらゆる製造業の知識や経験が生きるフィールドです。だからこそ、他の産業の人にどんどん入ってもらいたいですね。
――他の産業から人材を受け入れることによって、これまでとは違ったイノベーションが起きる可能性があるということですね。
稲川:自動車産業から学ぶのは分かりやすいですよね。部品の値段を1円以下、1銭、2銭のレベルで下げるために技術を磨いてきたからこそ、車は100万円、200万円くらいで買えるわけです。あれだけの機械が数百万円で買えるのは奇跡的です。コストの管理や量産にものすごく力を入れているからこそ、実現できていると言えます。
むしろ宇宙産業は、自動車産業のそういう努力を学ばなければならないと思っています。自動車産業国内トップのトヨタさんから、エンジンや生産技術を担当していた方が来てくれたことで、その文脈にはまりました。4月からはびっくりするくらい現場の雰囲気が変わっています。
私たちとしても受け入れ態勢を整えていますし、他の企業からも問い合わせが来ていますので、今後も受け入れていきたいと考えています。
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