ホリエモンこと堀江貴文氏が出資する北海道大樹町の宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ株式会社(以下、IST)は4月20日、国産小型ロケット「MOMO5号機」を5月2日に打ち上げると発表した。オンラインで実施された記者会見には、酒森正人町長も出席していたことは「ホリエモン出資のロケット「MOMO5号機」が5月2日に「打ち上げリベンジ」 新型コロナの影響で無観客打ち上げ」で報じた通りだ。
ところが、打ち上げが迫った4月27日――。大樹町がISTに打ち上げ延期を打診。翌28日には町長名で「要請に従っていただけない場合は、予定されている打上げに対して当町職員による支援をすることはできません」と強いトーンの要請文を突きつけた。
要請文を見ても分かるように、大樹町が延期を要請した理由は、打ち上げに際して来場の自粛を呼びかけているものの、多くの人が見学に来て新型コロナウイルスの感染が広がると、町民が不安に思っているからだという。ただ、町にかかってきた不安を訴える電話は20件程度で、町民はそのうちの約半分だった。
この要請を受けて、ISTの稲川貴大社長は、打ち上げ延期を決定。酒森町長も同席した28日夜のオンライン記者会見では、無観客での打ち上げや見学場の完全閉鎖、打ち上げ場所に人が来ないように警備や巡回を強化するといった最大限の対策をとってきたことを説明した。しかし、5月2日までの数日では町民に理解してもらうのは難しいことから要請を受け入れたと話し、苦渋の決断だったことをにじませた。
ISTは「MOMO5号機」の打ち上げを、宇宙事業が「実験」から「ビジネス」に進化する転換点と位置付けていた。同社は、2019年5月に「宇宙品質にシフト MOMO3号機」の打ち上げに成功し、国内の民間企業として初めて高度113キロの宇宙空間まで到達。世界でも民間単独の宇宙到達では9社目の偉業達成だった。
また、2023年ころには超小型の人工衛星打ち上げロケット「ZERO」によって衛星ビジネスへの参入を計画している。そのための布石として開発を加速させるべく、4月からは「助っ人エンジニア制度」を創設し、トヨタ自動車から2人のエンジニアの出向を受け入れたばかりだった。
ITmedia ビジネスオンラインは4月20日の時点で稲川社長に単独インタビューを実施。同社が進める人材育成、今後の成長戦略についてのビジョンを聞いていた。延期とされた5号機の打ち上げが、同社や日本の宇宙産業にとっていかなる意味を持っていたのかを問い掛ける意図から、その一問一答を掲載する。
――4月から「助っ人エンジニア制度」が始まり、トヨタ自動車から2人のエンジニアを受け入れています。どのようなきっかけでこの制度を始めたのでしょうか。
稲川:制度開始を決めたのは、最初に「MOMO5号機」の打ち上げを予定していた19年末から20年の初めにかけてです。ただ、きっかけはもっと前からでした。トヨタ自動車さんからは、もともと一緒にやっていきたいという申し出をいただいていました。
――トヨタが一緒にやっていきたいと申し出たのは、どのような趣旨だったのでしょうか。
稲川:人材育成の機会としてですね。宇宙産業という新しい取り組みに関わることと、ベンチャーでゼロからものづくりに関わることで、優秀な人材を育てたいという考えのようです。ゼロからのものづくりは私たちにとっては当たり前のことですが、大企業の方にとっては貴重な機会なのだと話を聞いて初めて理解しました。当社には実はそういう機会を提供する価値があるのだと気付きました。
――どのような技術を持った方を受け入れているのでしょうか。
稲川:来ていただいているのは2人で、30代後半のエンジニアです。生産技術やエンジンの関連部署でリーダーをしていた方です。私たちも勉強させてもらっている感じですね。期間は2年間の予定です。
――創業者の堀江さんは4月に発売した著書『ゼロからはじめる力』(SBクリエイティブ)で、部品が少なくて済む電気自動車と、自動運転とが普及すれば自動車産業は縮小し、一部の雇用はなくなるとしています。そこで、次に日本を支えるのは宇宙産業しかないと主張していますね。そのような文脈をトヨタも意識しているということでしょうか。
稲川:そういった思惑を持たれているのかは分かりませんが、当社を出向先に選んでいただけたのは、宇宙産業だからという文脈もあると思います。私たちも黙って受け入れるだけではもったいないというか、お互いに価値を膨らませることができないかと思い、「助っ人エンジニア制度」と名付けました(笑)。
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