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» 2020年05月14日 05時00分 公開

「能力適合型社会」から「能力発見型社会」へ:「ブランク」や「ドロップアウト」は無意味ではない いま見直すべき、「採用の常識」とは? (5/5)

[川上敬太郎,ITmedia]
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主婦・主夫期間も、お笑い芸人期間も“ブランク”ではない

 私が所属する調査機関の「しゅふJOB総研」では、“ブランク”と見なされてしまいがちな主婦・主夫業期間に磨かれた能力を「家オペ力(いえおぺりょく):家周りの仕事をオペレーションする能力の略」と名付け、その能力を発見するための演習ツールを公開しています。例えば、日々の料理一つをとってみても、毎日3食作れば1年で3×365日=1095食になります。家族4人分なら4000食を超える計算です。また、料理を作る中で献立を考える「企画力」や忙しい中で3食を作り上げたり片付けたりする「段取力」、1年間休まず作り続ける「実行力」なども、主婦・主夫期間には磨かれているはずです。

 最初に紹介したお笑い芸人の方の場合、20年近くにわたる芸人としての活動期間中に無数のネタを考えた「企画力」や、どんな情報がちまたで流行っているのかを調査する「リサーチ力」、ネタとして披露する「表現力」「プレゼン力」などが磨かれているはずです。しかも、それらをプロとして観客に見せていたとなれば、そのレベルは突出しています。

主婦・主夫生活で培える能力も数多くある(出所:ゲッティイメージズ)

 このように、サラリーマンとして働いていなくても、その期間で身についたはずの能力をブランクという言葉一つでないものにしてしまっては、才能を埋もれさせてしまうだけです。それは、個人から活躍の場を奪うだけでなく、社会においても、人の持つ“才能”という貴重な資源・財産を無駄に捨ててしまっていることになります。

 「君たちには無限の可能性がある」――これは、今は亡き小学校時代の恩師がよく口にしていた言葉です。人生には良いときもあれば、そうでないときもあります。自信を失ったり落ち込んだりしたとき、いまだに恩師のこの言葉に励まされます。

「ない」より「ある」へ目を向けよう

 今の社会は、能力適合型の傾向が強いように思います。その傾向は、企業が採用したり人員配置したりする際にも色濃く表れています。しかし、社会に求められる能力に適合させようとすると、どうしても“ない”ものの方に視点が行きがちです。社内に人材がいないと嘆く声の多くは、ここに原因があるのではないでしょうか。

 一方、人が持つ可能性の方に目を向けることができれば、視点は“ある”ものの方に置かれます。コロナ禍の影響で今は下がり気味の有効求人倍率ですが、経済活動が活発化してきたとき、再び人手不足感が強まっていく可能性があります。そのときに“ある”ものを発見して能力を生かす方向へと考え方をシフトできていれば、採用活動をより優位に進められると思います。

 企業の採用活動が変わっていけば、社会の価値観も変わっていくはずです。あるいは逆に、社会の価値観を能力適合型から能力発見型へと移行させていけば、企業が行う採用活動などの常識が変わっていくのかもしれません。鶏が先か卵が先かは分かりませんが、能力適合型社会から能力発見型社会への移行は、人がより幸せを享受でき、またさらに企業が発展していくために通るべき道なのだと思います。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業。テンプスタッフ株式会社(当時)、業界専門誌『月刊人材ビジネス』などを経て2010年株式会社ビースタイル入社 。2011年より現職 (2020年からビースタイル ホールディングス) 。複数社に渡って、事業現場から管理部門までを統括。しゅふJOB総研では、のべ3万人以上の“働く主婦層”の声を調査・分析。 『ヒトラボ』『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰。NHK『あさイチ』など、メディア出演・コメント多数。 厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。 男女の双子を含む4児の父。


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