クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ホンダの決算から見る未来池田直渡「週刊モータージャーナル」(7/7 ページ)

» 2020年05月25日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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i-MMDのコスト

 しかし課題はもうひとつある。ホンダのハイブリッドシステムである、i-MMDのコストがまだ高い。これが改善されると収益性が大幅に向上していくだろう。この話はアフターコロナの時代においてとても重要だ。

 現在直面している世界的な経済の大混乱において、環境対策のような、経済抑制につながる政策はどうしても後回しになりやすい。特に国境閉鎖で自ら分断の道を選んでしまったEUが、旧に復する道はとても険しい。共同体を目指しながら、厳しい時には助け合いどころか、徹底的な自国優先主義に走ることを、相互に思い知ってしまったからだ。

 左派的理想主義の延長として描いていたEU主導の環境規制は、彼ら自身の都合によって棚上げになる可能性が高い。それは欧州マーケットのEV化計画にマイナスに寄与するだろう。

 しかしながら、そうなったとしても、実は環境問題はなくなるわけではない。筆者は、急激なEVシフトについて、過ぎたるは猶及ばざるが如しと言い続けてきたが、環境対策がいらないとは思っていない。こうした経済下でも着々と普及が進められる環境対策車は必要なのだ。そしてこうなってみると、厳しい経済下で普及可能なのは、比較的コストの安いハイブリッドだと思う。すでにトヨタは欧州でハイブリッドの売り上げを着々と増やしている。そういう意味では、ホンダにとって、I-MMDのコストダウンは極めて重要な意味を持つはずだ。

 さて、最後に再び全体に目を移そう。最終的には、先に述べた「売上と利益については今回のような状況下で、営業利益率のダウンが4.2%レベルで抑えられているので、酷いことにはなっていない」と述べた通りである。さすがに来期はかなり絶望的な数字が出るだろうが、ホンダが内包する問題への布石はすでに打たれている。あとは描く未来へ向けて、やるべきことをやって、一歩ずつ前進を実現していくだけだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答を行っている。


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