リモートワークでも、社員の心の健康を維持するために社員研修のプロが語る(3/3 ページ)

» 2020年06月16日 08時00分 公開
[朝倉千恵子ITmedia]
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 ここでとられる策の一つが監視です。リモートワーク導入に関しても、多くの監視策がとられたと聞きます。マウスの稼働を記録したり、数分おきに自動的にスクリーンショットを撮影したり、常にテレビ電話をつないだままにしたりといった方法がとられていました。

 私はこうした監視策には否定的な立場です。多くの管理者は「あいつは俺が見ていないとサボるだろう」と考えます。しかし、これではまるで「私はあなたのことを信じていません」という意思表示に見えてしまいます。「自分のことを信頼してくれていない人のために、一生懸命働こう!」という気持ちに、あなたならなりますか?

 部下がサボっているのではなく、上司がサボらせているのだとしたら?

 私は自社の部下育成を考えるときも、お客さま企業の研修を担当するときもいつもこの視点も持ちながら考えています。「動かない部下」「動かない受講生」がいるのではなく「動かせない上司」「動かせない講師」が原因なのかもしれません。

 ここで一つだけアドバイスができるとしたら、マネジメントの最大の功績は「自分を超える部下を育てることだ」という意識を持つことです。「この仕事は俺でなければできない」と上司がいつまでも仕事を抱えていれば、部下は成長の機会がありません。最後の責任は上司が取る。けれども仕事は部下に任せる。そうした風土づくりが監視よりも先に必要なのではないでしょうか。

 一方、部下が頑張りすぎない工夫も必要です。私自身も初めてリモートワークを経験して「危険だな」と感じたのが、いつまでも働いてしまうことです。これまでは、会社にいる時間が仕事の時間でした。家に仕事を持ち帰ることもありましたが、退社という一つの区切りがありました。リモートワークではそれがありません。「もう少しやるか」とズルズル続けてしまい、気付けば朝から深夜までパソコンの前に張り付いていたという話も聞きます。お互いに家にいることが分かっているので、夜の時間帯であっても、上司から「悪いんだけど、ちょっとミーティングの時間もらえる?」なんて頼まれたらなかなか断れないですよね。

 リモートワークだからこそ、あえてきっちりと時間を決めるということは今後必要になってくると思います。全員統一の時間帯を設定してそれ以外の時間は原則やりとり禁止、あるいは「午後8時以降は家族と過ごすので一切連絡を受けられません」というように各自で区切るなど、各自が“自分の時間”を確保できることをルールとして導入することも、経営者や人事担当者は検討していかなければなりません。

 リモートワークの普及によって、あらためて管理者の課題も浮き彫りになりました。これまでの方法で部下と接することができずに、何をして良いか分からなくなったという声も聞きます。あらためて部下とのコミュニケーション、指導育成の在り方を見直すタイミングなのではないでしょうか。

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