新型車投入の横須賀線、“通勤電車ではなかった”歴史と「車両交代」の意味杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

» 2020年06月19日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 1968年、A-A様式の電車が全焼する事故が起きてしまった。そこで、さらに強化されたA-A基準・A基準・B基準が作られた。この通達は1987年の国鉄分割民営化時の法整備の一環で普通鉄道構造規則に移行した。この時に地下鉄用車両と長大トンネル車両の法解釈が分離された。さらに2002年、普通鉄道構造規則は「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」に統合され、先頭車非常口は努力義務となった。

 「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」の「解釈基準」によると、前面非常扉の設置については、「建築限界と車両限界の基礎限界との間隔が側部において400ミリ未満の区間を走行する車両」に求められている。簡単に言うと、車体とトンネル壁の間が40センチ以上確保できるなら、側面の扉も非常口として使えるから前面非常扉は不要となった。

 横須賀線・総武快速線に話を戻すと、品川〜東京〜錦糸町間は上記の「車体とトンネル壁の間が40センチ以上」に該当する。従って、E235系の横須賀線版は「前面非常扉なし」となった。実は現在のE217系電車も、「解釈基準」の変更後は「前面非常扉なし」になっている。その逆の例がE233系の常磐線版だ。E233系は中央線快速、京浜東北線、上野東京ラインなどで採用された標準車両だけど、常磐線版だけは千代田線直通車両のため前面に非常扉が付く。車体幅も少し狭い。

 鉄道事業者は安全確保の観点から自主的にA-A基準を順守した車両作りを実施している。しかし、先頭車の非常口については考え方に差異がある。コストと前面強度の問題だ。鉄道車両もクルマも、扉はコスト増の原因となる。扉がなければ一枚板で済むところを分割するわけだから、衝突時の強度も下がる。だから、地下鉄用電車は非常口付き、地下鉄に入らず、踏切がある区間を走る電車は非常口なしという傾向になった。

 E235系の横須賀線版に前面非常扉がない理由は、トンネルの規格だけではなく、地上区間の衝突安全性も考慮したためといえそうだ。

山手線の「E235系」(出典:JR東日本

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.