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コロナ後の働き方? 「ジョブ型雇用」に潜む“コスト削減”の思惑河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/5 ページ)

» 2020年06月26日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

 ところが、ふたを開けてみると「高プロ」が適用されたのは、法施行から1カ月でたったの1人。あれだけすったもんだの末に導入されたのに、全国でたった1人にしか適用されませんでした。

 理由は実にシンプル。高プロを導入すると、企業は高プロを適用した社員の「過労防止策の実施状況」を報告する義務があったため、企業側が制度を適用したがらなかった。つまり、「労働時間をきちんと管理する」という雇用者に求められている義務を果たすことを企業が嫌ったのです(現在、制度の利用者は414人にまで増えた)。

 そもそも「年収1075万円以上」という、労働人口(管理職含む)の0.01%の労働者しか対象にならないこの制度を導入したのは、蟻の一穴にしたかったから。高プロと同時期に導入が検討されていた「企画業務型裁量労働制の適用拡大」、別名「定額働かせ放題法」は、大バッシングを受け見送られました。

 どちらも法律が定める労働時間規制から完全に逸脱する制度ですが、最大の違いは年収の制限の有無です。おそらく“お偉い方たち”は、「取りあえず時間規制を外す制度をつくっちゃって、あとはどんどん拡大していきゃいいじゃん!」と考えた。……と、私は思っています。

「高プロ」を適用した従業員に対する労働時間の管理が義務となっていた(写真提供:ゲッティイメージズ)

米国が求めてきた「労働時間規制からの離脱」

 なんせ「労働時間規制」からの離脱は、長年の夢でした。

 高プロ発案のきっかけとなった「ホワイトカラー・エグゼンプション」は、第一次安倍政権下で導入が検討。このときも「過労死促進法」と批判され、法制化は見送られました。

 しかし、時の総理大臣は「残業代が出ないのだから従業員は帰宅する時間が早くなり、家族団らんが増え、少子化問題も解決する」とのんきなことを言い、時の厚生労働大臣も「家庭団らん法」と呼び変えるように指示。

 また、某氏に至っては「だいたい経営者は、過労死するまで働けなんて言いませんからね。過労死を含めて、これは自己管理だと私は思います。ボクシングの選手と一緒です。自分でつらいなら、休みたいと自己主張すればいいのに、そんなことは言えない、とヘンな自己規制をしてしまって、周囲に促されないと休みも取れない」と言い放つなど、全く議論はかみ合いませんでした。

 第ニ次安倍内閣においても、一部の企業に特例的に認める方向で検討しましたが、これもうまくいきませんでした。

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