日本アニメは本当に「ガラパゴス」なのか――待ち受ける真の危機に迫るジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(3/5 ページ)

» 2020年08月03日 08時00分 公開
[数土直志ITmedia]

ガラパゴス作品が海外で受ける逆転現象

 面白いのは、『獣兵衛忍風帖』『うろつき童子』『銃夢』といった日本でもあまり知られないOVA作品が、この流れで高く評価されたことだ。日本のなかでもコアファンに向けたまさにガラパゴスな作品が、日本以上に海外で評価される逆転現象が起きる。

 しかし日本の独自性は、『AKIRA』で生まれたわけでない。その出発点には『鉄腕アトム』がある。1960年代初め、当時の制作会社虫プロの社長で漫画家の手塚治虫は、制作コストを大幅に圧縮することで30分枠のTVアニメシリーズを実現する。このために、描く絵の枚数を大胆に減らした。それまでの枚数の多い制作手法ではTV局が納得する制作予算に対応できなかったためである。

 絵の枚数を減らすことで、止め絵で表現する、タメやツメを生かすといった独特な映像手法が発達し、絵の動きを補うストーリーの高度化や複雑化が促された。

 さらに不足する制作費を補うために、キャラクターライセンス(著作権ビジネス)を積極的に取り入れた。日本が世界に先駆けて大量にアニメを制作できた理由だ。これらが欧米と異なった日本アニメの歴史になっていく。

ハリウッドもディズニーも一種のガラパゴス

 それでも日本アニメだけが本当にガラパゴスなのだろうか。そもそも日本に限らず、どんな文化にもそれぞれ独自の歴史や特徴がある。ディズニースタイルはいかにも米国的だし、アートの強い作品からヨーロッパらしさを感じ取る人は多いはずだ。中国や他地域も同様だ。どの国も多かれ少なかれガラパゴスなのだ。

 映像世界のグローバルスタンダードとされるハリウッドスタイルも、米国で生まれた巨大なガラパゴスで、それが世界に輸出されているだけに過ぎない。

 日本では国際化、グローバルスタンダードの目標に、国際共同製作の成功を掲げることが多い。しかし日本がこれまで手掛けたアニメの国際共同製作は思ったほど効果を上げていない。80年代に日米欧のトップクリエイターが参加し、当時で60億円近い予算を投じた『NEMO/ニモ』の興行的な大失敗などの記憶も残る。

 むしろ70年代から2010年代まで国際共同製作のプロジェクトは少なくないが、大きい物ほど成功例が少ない。失敗の理由は、1つの作品に複数のカルチャーを折衷的に盛り込むことで、どの文化からも親しみやすさが遠のくという点だ。

 国際共同製作で成功の多いヨーロッパ・カナダを参考に、という指摘も多い。しかしヨーロッパ諸国やカナダはいわば同じ文化圏に属し、制作システムが近い。国際共同製作・制作における成功は、いずれかの文化圏が主導権を持つことでしか成り立たない。日本に限らず国際共同製作はそもそも楽でない。

 ではなぜ日本だけがガラパゴスとされるのか。それは作品の内容というよりも、日本のシステムにあるかもしれない。ガラパゴスの語源であるガラパゴス諸島の固有性は、広い海に隔てられた孤島であることから生まれた。島国であり、他国で使われない日本語がある日本も他国文化の進出を阻む。

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