日本アニメは本当に「ガラパゴス」なのか――待ち受ける真の危機に迫るジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(4/5 ページ)

» 2020年08月03日 08時00分 公開
[数土直志ITmedia]

ジョジョOVA「コーラン事件」の衝撃

 日本は自国のアニメが強いため、ディズニーなど限られたブランド以外の作品が入りにくい。さらには日本作品の中でも2Dの商業アニメが強く、異なった表現作品が共存しにくい。日本が不足しているのは「日本のアニメを世界に通用させるために変えること」でなく、海外のカルチャーも受け入れるシステムと多様性だ。

 ただ注意したいのは、海外における表現の受け取り方である。他文化を傷つける表現を避けることはどんな場合でも大切だ。2008年にOVA版『ジョジョの奇妙な冒険』で敵役ディオがコーランを読むシーンが問題になり、集英社が公式サイトで謝罪する事件が起きた。アニメの制作は01年とかなり前になる。当時はイスラム圏にアニメファンがいることなど想像もしなかっただろう。

 海外ではこれまでは考えられなかったほど多くの人が作品を観ている、観る人も多様化しているとの意識は大切だ。これまで気付かなかったようなタブーも少なくない。ここは最大限の配慮をするべきだ。

 さらにもう1つ。子ども向け作品での暴力表現の忌避、登場人物の男女比であるジェンダーバランスや、性別・年齢別・人種に対する先入観の排除といったポリティカルコレクトネスの問題もある。これはグローバル化というよりも、日本文化と社会自体の変化である。世界に合わせるのでなく、時代に合わせるのである。昔は許されたものが、現在は許されないということも多いが、これはグローバル化やガラパゴスとは別の問題だ。

海外で花開く日本アニメカルチャー、だが……

 日本が日本アニメの独自性で悩む一方で、世界の方が急速に変わり始めている。ガラパゴスと称される日本アニメカルチャーがむしろ国境を越えつつある。日本の表現を取り入れた他国のアニメが世界各国で次々に生まれているのだ。

 Netflixでは長い間、日本アニメを意味してきた「ANIME」のカテゴリーに、『悪魔城ドラキュラ -キャッスルヴァニア-』『キャノン・バスターズ』『セイス・マノス』といった海外スタジオの制作した日本アニメスタイルの作品が並んでいる。日本アニメスタイルを掲げなくとも、欧米・アジアのアニメーションで長年奇妙な表現と揶揄(やゆ)されてきた、日本アニメと同様の大きな目のキャラクターが今は頻繁にみられるようになった。

 日本はあまり変わらなかったが、世界が大きく変わりつつある。ガラパゴスとされた日本アニメの独自性が世界に拡散し、独自性はむしろ薄れている。

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