米国のWeChat禁止令で「ファーウェイが伸びアップルが失墜」の可能性浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(4/5 ページ)

» 2020年08月13日 16時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]

禁止の範囲分からずユーザー困惑

 一方、テンセントの事業・サービスのうち、明確に標的になっているのが「WeChat」だ。メッセージ、画像、文書ファイルなどさまざまなデータをやり取りでき、仕事でも使われているため、情報流出リスクはTikTokより大きい。

WeChatの日本語サイト(リンク

 米国には、Facebookの「メッセンジャー」や「WhatsApp」「Skype」など有力メッセージアプリが複数あり、WeChatのユーザーは多くない。また、テンセント自身も12日の決算で、「米国事業での収入は全体の2%以下」と説明し、中国の大手証券会社「華泰証券(HTSC)」は、ゲーム・エンタメ分野が禁止の対象外なら、大統領令が発効してもテンセントの業績への影響は限定的と分析している。

 とは言え、禁止の範囲や方法が明らかになっておらず、あらゆる分析が「仮定」の上に行われているとあって、WeChatユーザーの間ではさまざまな憶測が飛び交っている。

 「禁止」といっても、アプリストアから削除されるのか、接続ができなくなるのかなど、いくつかのパターンが考えられる。例えば「LINE」は当初中国で自由に使え、アプリストアからもダウンロードできたが、14年にブロックされた。中国のアプリストアから削除され、筆者が中国で使っていた中国版LINEも接続できなくなったが、一方で、日本で使用しているスマホにインストールした日本版LINEはその後も“壁越えツール”とも呼ばれる「VPN(仮想プライベートネットワーク)」を使えば、FacebookやTwitterと同様に中国から接続可能だった。

 今回の大統領令を受けて、中国人の間では「iPhoneではWeChatが使えなくなるからファーウェイに乗り換える」「規制が及ぶのは米国だけなので、中国や香港で買った端末では引き続き使える」「Apple IDを作成した国の規制を受ける」など諸説が乱れ飛び、特にiPhoneユーザーで買い替え時期にある消費者を困惑させている。

iPhone販売は3割減のリスク

 消費者の混乱を見透かしたかのように、興味深い予測も提示された。アップルの新製品情報をいち早くリークし、「iPhoneの予言者」と呼ばれる中国のアナリストであるミンチー・クオ(郭明錤)氏は10日、WeChatの禁止の程度によってはテンセントよりもアップルが打撃を受けることを示唆した。

 クオ氏によると、アップルはインドでTikTokなど59アプリが禁止された数時間後にインドのアプリストアからアプリを削除しており、米国で禁止された場合も同様の措置を取る可能性が高い。

 WeChatが米国のアプリストアからのみ削除された場合は、iPhoneの年間の出荷台数は3〜6%減に抑えられ、AirPods、iPad、Apple Watch、Macなどの端末の出荷台数の減少幅は3%未満にとどまる。だが、米国企業のアップルが、世界中のアプリストアからWeChatの削除を迫られた場合、iPhoneの年間出荷台数は25〜30%減少し、その他の端末の出荷台数は15〜25%減少が見込まれるという。

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