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新型コロナで絶たれた「世界一への階段」  WAGYUMAFIA浜田代表が見いだしたECとライブコマースの可能性戻らないインバウンド(1/5 ページ)

» 2020年09月11日 15時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

 「2020年はオリンピックがありますから、この5年で頂点をとれなかったら難しいと思って取り組んでいます。最初の5年間は集中できるのと、やっていて楽しいので一番伸びる時期ですよね。そこで集大成まで持っていきたい」

 20年1月に公開したインタビューで、WAGYUMAFIA(東京・港)代表の浜田寿人はこう答えていた。幾多の挫折を繰り返しながら、浜田は「世界一」への階段を着実に歩んでいたはずだった……。

 和牛を世界に輸出し、国内と香港で高級和牛レストランなどを展開している同社。最高級の和牛ブランドを世界に広めるというコンセプトのもと、16年に設立してから急成長を遂げてきた。その過程は「浜田寿人の肖像」でレポートした通りだ。

 立ち上げから5年を迎える21年には、和牛レストランとして世界の頂点に立つという目標を掲げ、世界の主要都市への出店を計画。営業利益3億円を目標に掲げた今期も、1月までは順調だった。

phot 営業利益3億円を目標に掲げていたWAGYUMAFIAの主要メンバーと、コラボイベント先の羊SUNRISE(サンライズ)のメンバー(以下写真はWAGYUMAFIA提供)

 ところが――。そのWAGYUMAFIAも新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響をもろに受けた。和牛の輸出は止まり、海外で予定していたポップアップイベントも全て中止に。国内ではインバウンド客も失って、2月からの3カ月間で売り上げは対前年で約2億円も減少した。

 それでも、新型コロナの終息を指をくわえて待ってはいられない。EC(電子商取引)やライブコマースを新たに始めるなど、共同設立者であるホリエモンこと堀江貴文と共に戦略を練り、国内の飲食事業に関しては、5月以降何とか立ち直りつつある。最高級の和牛の買い付けも止めることなく続け、輸出もアジアを中心に再開した。ただ、インバウンドが戻る気配はまだない。現在はもがいている最中だ。

 浜田は新型コロナの影響に対応する中で、飲食店の成功について「店舗数×αの時代は終わった」と語った。つまり店舗の数を増やしていくだけの時代はすでに終わっているのだ。和牛生産者とともに、コロナ禍をどのように乗り切ろうとしているのか――。浜田に話を聞いた。

phot 浜田寿人(はまだ・ひさと)1977年生まれ。ソニー本社に最年少で入社後、映画会社を立ち上げる。2012年に初の和牛輸出をシンガポール向けに開始、現在20か国以上に和牛を輸出する。2016年にWAGYUMAFIAを設立。以降、シェフとして世界ツアーを85都市で実施。WAGYUMAFIAのトータルプロデュースを手掛ける。

輸出不可、予約300件キャンセル、香港もストップ

 浜田が最初に異変を感じたのは1月下旬だった。香港にあるWAGYUMAFIAの海外旗艦店で、2月に予定していた海外シェフとのイベントが中止になったのだ。前月に中国・武漢市で新型コロナの感染者が初めて確認され、日本国内では1月16日に最初の感染者が確認されたばかり。その時点で、「おそらく客はこないだろう」と考えた香港側のスタッフが要請し、イベントの中止を決めたのだ。

 WAGYUMAFIAはグループで高級和牛レストランなどを国内4店舗、香港に3店舗運営するとともに、最高級和牛を海外に輸出。世界各国のシェフとポップアップイベントを開催するワールドツアーも展開している。浜田は2月もオランダや英国の各地でイベントを開催したものの、その間に日本では横浜に入港したダイヤモンド・プリンセス号の乗客に感染が広がり、3月には欧州で感染爆発が始まった。そのタイミングで同社の事業にも、突如として暗雲が立ち込めたのだ。

 計画では春節、花見、ゴールデンウィーク、東京五輪という「ゴールデンスケジュール」のはずだった。

 「3月23日に英国がロックダウンした頃には、日本でインバウンドの予約300件が一気に消えました。これはまずいと思って、堀江と緊急経営会議を開いて対応策を検討しました。堀江は『完全にビジネスモデルの崩壊だ』と言って、落ち込んでいましたね」

 WAGYUMAFIAブランドの国内4店舗のうち、インバウンド客が95%以上を占めていた高級カツサンドの店をはじめ、合計3店舗を休業。唯一残した港区西麻布の店舗では焼肉弁当のテークアウトを始めた。しかし、国内飲食事業は60%近くがインバウンドの客だったため、その売り上げは消えたまま。和牛の輸出も止まり、香港の旗艦店も売り上げが大幅減となった。

 「国内飲食事業、和牛の海外輸出、香港の飲食事業が全て壊滅的な影響を受けて、トリプルパンチでしたね。大打撃という言葉以上の打撃でした。グループ全体では2月からの3カ月間で、約2億円の売り上げが消えました。特に3月は大赤字です。ワールドツアーは25本がキャンセルになり、銀座でオープンする予定だったインバウンドも視野に入れた旗艦店の新店舗はストップさせました」

 国内では4月8日、緊急事態宣言が7都道府県に発出された。飲食店は営業時間の短縮が要請されて、段階的に解除されることにはなったものの、米国や欧州ではさらに感染爆発は続き、多数の死者が出る事態となった。新型コロナの影響を見ながら、いかにして経営をしていくのか――。悩む日々が続いた。

 「3月の段階では、日本と海外の感染の違いが見えていませんでした。僕の主治医はソーシャルディスタンスはとらずに、スウェーデンと同じように集団免疫を目指しながら経済を回した方がいいと言っていました。一方で、『海外と日本では感染力が違う』と話す人もいましたね。

 僕らは国際的なブランドを目指しているので、日本の状況だけを見て、いままでと同じように営業し、ワールドツアーをするのでは、国際的な批判にさらされる可能性があります。だから、国際的な世論に合わせる必要がありました」

 仮に国内の店舗で夜の営業ができるようになっても、インバウンドがすぐに戻らないのは確実だった。現在の業態自体を根本的に見直さざるを得なくなった。

phot コロナ禍の中、香港のセントラルにオープンしたYAKINIKUMAFIA初の海外フラッグシップ店
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