「WEST EXPRESS 銀河」と「36ぷらす3」は、観光列車では手薄のミッドレンジ価格帯に投入された。これは新たな観光列車の潮流になるかもしれない。
「WEST EXPRESS 銀河」は現在、旅行会社の企画旅行として販売されている。近畿起点と山陰起点の往復コースがあり、「WEST EXPRESS 銀河」の片道利用、往復利用、現地宿泊の有無などを選択できる。「WEST EXPRESS 銀河」と新幹線+在来線特急「やくも」を組み合わせたプランは、目的地のホテル1泊を組み合わせて2万6000円〜2万8000円。往復とも「WEST EXPRESS 銀河」を使うプランは現地1泊タイプで3万2700円〜5万5100円、現地泊なしタイプは近畿発着のみ2万8900円〜3万2700円だ。
これらは普通車指定席を使った場合で、グリーン席やグリーン個室を使う場合は加算される。ファーストシートは3700円、個室は6800円の加算。特急やくものグリーン席は1000円の加算だ。最もぜいたくな組み合わせだと7万円近くになるとはいえ、おおむねミッドレンジ価格帯に収まる。
19年11月の発表時点では、「WEST EXPRESS 銀河」は旅行商品としてだけではなく、JR西日本のインターネット予約サービスや全国の駅のみどりの窓口でも販売する予定だった。京都〜出雲市間の片道利用の場合、最低金額は乗車券7150円+指定席特急料金3290円(閑散期)の1万440円で、ローエンド価格帯におさまる。普通車指定席にはかつてのB寝台風の「クシェット」がある。ブルートレインブームの頃は特急料金のほかにB寝台料金6800円が必要だったから、クシェットが普通車指定席料金だけで乗れるとは、かなりおトクな設定だ。
最高金額は乗車券7150円+指定席特急料金2960円(グリーン席用)+グリーン個室料金7240円の1万7350円となり、ミッドレンジ価格帯になる。個室料金は日本旅行の差額料金と少しズレているけれども、これは日本旅行の料金に団体割引が適用されているからだ。列車だけを利用したい、宿泊地は自分で選びたい人にとっては駅の窓口販売が待たれる。転売の発生が気になるけれども、もし企画旅行より駅の窓口販売が好調なら、市場はローエンドタイプの夜行列車を選んだことになる。
「36ぷらす3」は乗車距離とサービス内容でレンジが広く、乗車するだけであれば約5000円から、食事付き企画商品は1万2000円〜3万円となる。各コースを連続して乗り続ければ、木曜コースから月曜コースまで、九州一周の総額は12万4000円になる。「36ぷらす3」は、ローエンドからハイエンドまで、全ての価格帯に対応した初の観光列車となった。
ローエンド価格帯の観光列車群のほとんどが中古車を改造してコストを抑えた。その車両の老朽化が進めば、いずれ廃止か、新しい車両を入れて存続させるかの判断が必要になる。新型車両を入れるなら単価を上げていきたい。そうなると次の料金クラス、ミッドレンジ価格帯も視野に入る。「WEST EXPRESS 銀河」と「36ぷらす3」は「ミッドレンジ価格帯の観光列車」の試金石ともいえそうだ。
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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