ということで、バッテリーの供給に構造的問題を抱える現状では、よりバッテリーの搭載量を少なくしつつ、いかに効率的に温室効果ガスの発生を抑えるかが求められている。真剣に環境のことを考えるのであれば、そうなるはずだ。
「ゼロエミッションのEV以外は紛い物だからダメだ」と言うならば、高価なEVを買えない人たちはこれまで通り内燃機関オンリーのクルマに乗ることになる。それでは環境はちっとも改善しない。あるいはもっと急進的に「今すぐEV以外のクルマを禁止せよ」みたいな話になるかもしれない。もしそんなことになったら、世界中で人と物の流れが止まり、ロックダウン状態に陥るだろう。
結局は、長期的にはバッテリー供給量の問題を解決し、低価格化を達成して、オールEVへの道を模索していくことになるだろうが、その過程では、時代時代に応じたベストエフォートとして、プラグインハイブリッドや、ハイブリッド、マイルドハイブリッド、クリーンディーゼル、低排出ガス内燃機関などを組み合わせつつ、トータルで温室効果ガスの排出が最小になるようにコントロールするより他はない。
ちなみに現在の各方式に求められるバッテリー容量はおおむね以下のような形だ。
- プレミアムEV(テスラなど) 80kWh
- レギュラーEV(日産リーフなど) 40kWh
- 低容量EV(Honda e など) 35kWh
- プラグインハイブリッド(トヨタRAV4 PHV など) 20kWh
- ハイブリッド(トヨタ・プリウスなど) 1kWh
- マイルドハイブリッド(スズキ・ワゴンRなど) 0.04kWh
各方式に求められるバッテリー容量
もちろん、これはあくまでもこんな感じという話であって、具体的な車種を定めると少しずつ違う。例えばハイブリッドは1kWhとしてあるが、プリウスは1.3kWhで、アクアやフィットは0.9kWhという具合になっている。
全部がEVになれば確かにめでたい話で、走行中の排出ガスはゼロになるのだが、現実的に普及率がグローバルで2%かそこらのEVにはまだ遠い道のりだ。
- EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。
- RAV4 PHV 現時点の最適解なれど
トヨタはRAV4 PHVを次世代システムとして市場投入した。世間のうわさは知らないが、これは早目対応の部類だと思う。理由は簡単。500万円のクルマはそうたくさん売れないからだ。売れ行きの主流がHVからPHVへ移行するには、PHVが250万円程度で売れるようにならなくては無理だ。たった18.1kWhのリチウムイオンバッテリーでも、こんな価格になってしまうのだ。まあそこにはトヨタ一流の見切りもあってのことだが。
- 暴走が止まらないヨーロッパ
英政府は、ガソリン車、ディーゼル車の新車販売を、ハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHEV)も含め、2035年に禁止すると発表した。欧州の主要国はすでに2040年前後を目処に、内燃機関の新車販売を禁止する方向を打ち出している。地球環境を本当に心配し、より素早くCO2削減を進めようとするならば、理想主義に引きずられて「いかなる場合もゼロエミッション」ではなく、HVなども含めて普及させる方が重要ではないか。
- ようやくHVの再評価を決めた中国
中国での環境規制に見直しが入る。EV/FCVへの転換をやれる限り実行してみた結果として、見込みが甘かったことが分かった。そこでもう一度CO2を効率的に削減できる方法を見直した結果、当面のブリッジとしてHVを再評価する動きになった。今後10年はHVが主流の時代が続くだろう。
- 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
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