バッテリー生産は設備投資が巨額になる。しかも工場への設備投資というのは、回収には20年も30年もかかるのが普通だ。そういうリクープに時間がかかる投資を決めるには、前述の通り、技術トレンドが運悪く端境期だということが問題をより難しくしている。
バッテリーに爆発や炎上のリスクがあるのは広く知られているが、その原因の多くは異物の混入だ。バッテリーをコンパクト化するためには、正電極と負電極のクリアランスの極小化が求められる。そこにわずかな異物が入ってもショートサーキットが起きて、炎上のリスクが高まる。だからバッテリーの生産工場は高レベルのクリーンルームが求められる。のみならず、化学製品なので、温度と湿度のコントロールも厳密にしなくてはならない。工程数が多いため長大なライン全体の条件を厳密に整えるためには高い気密性と緻密なエアコンディショナーが必要だ。それがコストを押し上げるのだ。
そんな大艦巨砲主義的工場を作った挙句、トヨタが突然「懸案の全固体電池が完成しました」とでも発表しようものなら、設備投資が全部パーになりかねない。もちろん運良く全固体電池の生産に求められる設備がリチウムイオンと似通っているならば良いが、現状では誰もそれを明言できる状態にない。なぜならば全固体電池の生産が始まらないのは、求められる要件を満たす生産方法、あるいは生産技術が確立していないからだ。それがどういう内容になるのはまだよく分かっていないのだ。
ギャンブラーのテスラは大規模なバッテリー工場建設に乗り出しているそうだが、当然これも高リスク。それにつきあうパナソニックも同様のリスクを負う。
米テスラとパナソニックが、米ネバダ州で14年に着工させたリチウムイオンバッテリー工場のギガファクトリー。30%が完成、稼働しており、同社は世界で最も大きなバッテリー工場だとしている(完成予想画像 同社Webページより)
- EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。
- RAV4 PHV 現時点の最適解なれど
トヨタはRAV4 PHVを次世代システムとして市場投入した。世間のうわさは知らないが、これは早目対応の部類だと思う。理由は簡単。500万円のクルマはそうたくさん売れないからだ。売れ行きの主流がHVからPHVへ移行するには、PHVが250万円程度で売れるようにならなくては無理だ。たった18.1kWhのリチウムイオンバッテリーでも、こんな価格になってしまうのだ。まあそこにはトヨタ一流の見切りもあってのことだが。
- 暴走が止まらないヨーロッパ
英政府は、ガソリン車、ディーゼル車の新車販売を、ハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHEV)も含め、2035年に禁止すると発表した。欧州の主要国はすでに2040年前後を目処に、内燃機関の新車販売を禁止する方向を打ち出している。地球環境を本当に心配し、より素早くCO2削減を進めようとするならば、理想主義に引きずられて「いかなる場合もゼロエミッション」ではなく、HVなども含めて普及させる方が重要ではないか。
- ようやくHVの再評価を決めた中国
中国での環境規制に見直しが入る。EV/FCVへの転換をやれる限り実行してみた結果として、見込みが甘かったことが分かった。そこでもう一度CO2を効率的に削減できる方法を見直した結果、当面のブリッジとしてHVを再評価する動きになった。今後10年はHVが主流の時代が続くだろう。
- 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.