クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

やり直しの「MIRAI」(後編) 池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2020年11月09日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

再エネだけで成り立つ社会で起きること

 つまり乱暴にいえば、やがて風力と太陽光で国内の全電力需要をまかなわなくてはいけなくなる。その時どうなるか? 風力と太陽光発電は出力が安定しない。そういう発電施設で全電力をまかなうとすれば、発電能力は、需要の数倍の余力を持たせなくてはならない。そうでなければ風のない雨の日には、電力不足でブラックアウトが起きて、行政のシステムも銀行のシステムも止まるし、病院の電源も落ちる。ネットワークも動かなくなる。すべての産業が操業できなくなる。

 ではキャパシティを多くすればいいのかといえば、電力が野放図に余るのも困る。それはそれでブラックアウトが起きる。つまり過去において原子力発電をベース電力に、火力発電の稼働切り替えで調整していたインフラ電力の出力調整と同じことを、別のシステムに置き換えなければならない。

 再生可能エネルギーの場合、気象条件による極端な能力差をも吸収できる過大な発電が前提なので、大量の余剰電力をなんらかの方法で備蓄したいのだが、それほどのエネルギーを受け止めるにはバッテリーではどうにもならない。だから電力を水素に変換して保存するのだ。これは水を電気分解するだけなので、完全にCO2フリーである。

 「電気のままEVに充電すればいい」という意見もあるかもしれないが、その場合EVはインフラ電力の調整用につねにグリッドにつないでおかなくてはならなくなる。走ることができない。しかもバッテリー容量は有限なので、調整代に限界がある。

 発電量の多い日にとにかく水素に変換して貯蔵してしまえば、発電量の少ない日にはこの水素から電力に還元して「しわ取り(発電量を調整して需給変動を抑えること)」することもできるし、保存・輸送可能なエネルギーとしてさまざまに利用できる。これらはすでに実証実験が進んでおり、小規模なものは横浜・川崎の臨海エリアで、風力を用いた「ハマウイング」が稼働しているし、大規模なものは福島の浪江町で、太陽光による1万kW級の「福島水素エネルギー研究フィールド」の稼働が始まっている。

横浜・川崎の臨海エリアにある、風力を用いた「ハマウイング」

 余談だが、大量に電力が余るシステム設計なので、700気圧に水素を圧縮するエネルギーもまた余剰電力でまかなえる。全体としては壮大な無駄だが、再生可能エネルギー以外ダメだというならばほかに方法はないだろう。

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