2019年の東京モーターショーに出品された、トヨタの新型MIRAI(ミライ)のプロトタイプ試乗に呼ばれて、富士スピードウェイのショートコースに出かけてきた。
伸びやかでマッシブなデザインへと生まれ変わった新型MIRAIのプロトタイプ
さて、MIRAIというクルマは書く側にとってややこしい。そもそも変わったシステムだからだ。もちろんいつだって、一番大事なのはクルマの出来なのだが、今回はほぼ全てが刷新されて生まれ変わった。駆動方式も、動力システムの配置も、シャシーも違う。当然パッケージデザインもまるっと変わった。それだけ違うのはターゲット顧客が変わったからだ。これだけでもずいぶん文字数を食う話である。
加えて、水素インフラの長期展望の話も避けて通れない。それは別途後編に書くとしても、今回の前編もまた結構長い話になるだろう。
さてまずスタイルとシステムレイアウトから話を進めよう。初代MIRAIは、事実上世界初の燃料電池車(FCV)として2014年にデビューした。前例はないに等しいので、「こういうのが燃料電池車」という記号的認識が皆無の中で、手探りから始めざるを得なかった。
トヨタは「大気中から酸素を取り入れて水素と化合させて発電する」というイメージを形にしようとした。具体的にはノーズ両端を巨大なエアスクープのようにデザインし、ノーズから取り入れられた気流が、ボディを経由してリアへ流れていくように見せる造形だった。こういう概念的モチーフはコンセプトカーの手法であって、真面目ではあるが商品デザインの考え方ではない。
- 燃料電池は終わったのか?
2014年末にトヨタが世に送り出したMIRAIだが、最近話題に上ることは少なくなった。「燃料電池は終わった」とか「トヨタは選択を間違った」としたり顔で言う人が増えつつある。実のところはどうなのだろうか。
- 水素に未来はあるのか?
「内燃機関が完全に滅んで、100%全てのクルマがEVになる」という世界は、未来永劫来ないだろう。そのエネルギーミックスの中にまさに水素もあるわけだが、FCVにはいろいろと欠点がある。しかし脱化石燃料を目標として、ポスト内燃機関を考え、その候補のひとつがFCVであるとするならば、化石燃料の使用を減らすために「化石燃料由来の水素」に代替することには意味がない。だから水素の製造方法は変わらなくてはならない。また、700気圧という取り扱いが危険な貯蔵方法も変化が必要だ。
- EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。
- 自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変
「最近のクルマは燃費ばかり気にしてつまらなくなった」と嘆いても仕方ない。自動車メーカーが燃費を気にするのは、売れる売れないという目先のカネ勘定ではなくて、燃費基準に達しないと罰金で制裁されるからだ。昨今の環境規制状況と、それが転換点にあることを解説する。各メーカーはそのための戦略を練ってきたが、ここにきて4つの番狂わせがあった。
- 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
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