クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向
連載
» 2020年11月02日 07時00分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:やり直しの「MIRAI」(前編) (7/8)

[池田直渡,ITmedia]

滑らかで上質かつ高運動性能

 ピットロードを走り出すと、無振動で滑らかで上質な乗り味に驚かされる。魔法の絨毯(じゅうたん)とはこのことである。それが1つ目のコーナーに飛び込んだ途端、印象が変わる。まずステアリングの滑らかさと精度に驚き、次にコラム周りの剛性の高さに驚かされる。実は前述の通りクルマ全体の重量が軽いため、小径ブレーキローターの採用が可能になって、20インチの巨大なホイールサイズにもかかわらずバネ下の重量が軽い。おかげで、不整に突き上げられて暴れるばね下の重量が軽くなった。その結果、サスペンションアームのブッシュ容量削減が可能になって、上質な乗り心地と、高機動領域でのホイールの位置決め性能を共に飛躍的に向上させることができた。

高いインパネに対して低いシートはかつてのコクピット感を思い出させるが、意匠は現代的。カッパーの加飾はなかなか上品

 これに先ほど説明したモーターならではの高精細レスポンスが加わるので、旋回中のトルクのかけ方が自由自在。前後重量配分50:50と相まって限界は恐ろしく高い。厳密にいえば、19インチの方は高負荷旋回中に舐(な)めるようにブレーキを使うと穏やかにリヤが流れるが、20インチの方は筆者の腕ではビタッとグリップしたままだ。ブレーキで曲げようなどというサーキットレベルの荒事は別として、現実の路上では、緊急回避時の高負荷域でのタックインを防ぐために、スロットルオフでの回生量をコントロールして容易にリヤをブレークさせない仕組みになっている。意図的にそう躾(しつ)けてあるのだ。

 さらに速度を上げていくと何が起こるかといえば、フロントの舵角(だかく)に対して横力の付き方が頭打ちになって、限界を教えてくれる。要するに切ってもあまり曲がらなくなる。それをねじ伏せて踏み込むようなまねはしていないが、この領域でもサスを含めた車体が岩のようにがっしりしており、タイヤの接地面積が極めて安定している。

 ちなみに、テスラのような大容量バッテリーを積むEVは、瞬間的に取り出せる電力が大きいため、0-100キロ加速を2秒や3秒でこなすのだが、FCの場合、現状のシステムではそこまでの瞬間電力は調達できない。そもそも化学反応での発電はゆっくりトロトロ一定に休まず電気を取り出すのが身上で、瞬間湯沸かし器的な発電は苦手なのだ。回生用バッテリーの電力を併せて動員したとしてもレベルが違う。

後席背後には走行用バッテリー。回生の電力を蓄えるのが主目的

 1度か2度の信号ダッシュ勝負でチャンピオンを決めるならテスラが圧倒的強者だ。何度もやっているとバッテリーを保護するためのお仕置きモードが発動して、ダッシュできなくなる。さて、MIRAIは信号ダッシュでテスラに敵わないが、これは一部のEVが異常なだけで、一般的に見ればMIRAIも十分な俊足ぶりは見せてくれる。

 しかしながらMIRAIの本当の見所は、むしろ前述の通り中間域のレスポンスと、それに呼応するシャシー性能で、ワインディングでの俊足ぶりは相当な実力だし、のみならず、ゆっくり走ってもその精度の高い身ごなしは特筆に値する。そういうクルマでありながら、日常域の乗り心地が魔法の絨毯的に異次元の上質さを備える点を総合すれば、ちょっと類例を見ないクルマである。

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