クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

やり直しの「MIRAI」(後編) 池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2020年11月09日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

脱化石燃料のコミットメント

 それだけ不便なのにも関わらず、なぜ水素なのか? という疑問はあって当然だ。要するにこれは民間企業が利益を目的とした自由競争で売る商品ではないのだ。例によってパリ協定で、「2050年までに大気温を産業革命以前の気温の+2.0℃まで下げる」という国際的目標があり、各国に割り当てられた目標が存在する。要するに国が国際社会に対して交わした約束である。

 10月26日、菅義偉首相も所信表明演説で、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすると宣言した。以下首相官邸ページからの抜き出しである。

 菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります。

 我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。

 もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。

 鍵となるのは、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーションです。実用化を見据えた研究開発を加速度的に促進します。規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資の更なる普及を進めるとともに、脱炭素社会の実現に向けて、国と地方で検討を行う新たな場を創設するなど、総力を挙げて取り組みます。環境関連分野のデジタル化により、効率的、効果的にグリーン化を進めていきます。世界のグリーン産業をけん引し、経済と環境の好循環をつくり出してまいります。

 省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。

 脱化石燃料が正しいかどうか、それは多種多様な意見があるだろうが、問題は世界の偉い人が集まってルールを決め、国際社会がそれをすでに既定路線としているところにある。しかし、受験生が「受験勉強に何の意味があるのか?」とまともな疑問を持っても、人生になにひとつ得にならないように、それはもうそういうものと受け止めるしかない。

 いや、そうでなければアンチ環境運動家にでもなって、人生をささげる道もある。筆者は、温室効果ガスと地球温暖化の間にいろいろと疑義があることは知識として知っているが、それが事実か否かの判断を下すのは自分の範疇(はんちゅう)外であり、ひとまず国際的なコモンセンスとして受け入れるスタイルである。

 という常識に立てば、中期的な大きな流れとして、今後化石燃料を燃やすことはできなくなる。菅首相はなぜか石炭火力だけを引き合いに出しているが、50年にカーボンニュートラルを目指すなら石油だって燃やせない。理屈上そうなる。

 それは特にインフラ発電において極めて厳しい状況を呼ぶことになるだろう。化石燃料を燃やせないとしたら再生可能エネルギーしかない。CO2だけの話なら理論的には原発でいいし、所信表明を読む限り菅首相は原子力を視野に入れているようだ。しかしながら世界はどうかといえば、伝統的にアンチ原発は、再エネ的グリーン政策系のニュアンスの中に内包されているし、現実問題として国内で原発の大量新設がまかり通る政治的情勢とも思えない。

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