クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向
連載
» 2020年11月09日 07時00分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:やり直しの「MIRAI」(後編) (5/5)

[池田直渡,ITmedia]
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まだ見ぬ未来

 現状を一度置いて、未来の可能性を考えるのであれば、鉄道基地やコンビニで24時間の水素の小売が始まるかもしれない。実際にガソリンスタンド併設型のコンビニはたくさんあるし、JR東日本はすでに高輪ゲートウェイの車両基地に水素ステーションを設置した。各地のコンビニや鉄道車両基地が水素ステーションを併設するようになれば、インフラが大きく変わる。

JR東日本とトヨタが共同開発する「FV-E991系・HYBARI(HYdrogen-HYBrid Advanced Rail vehicle for Innovation)」。なかなかうまいネーミングだ

 国策として再生エネルギーへの転換を促進することがほぼ決まっている以上(原発に戻りたいのかもしれないが)、多くの補助金・助成金が注ぎ込まれることになるだろう。何しろ菅首相は「積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながる」と宣言しているのだ。そうなると、コンビニを開業するなら水素スタンド併設だと圧倒的に有利、みたいな話になる可能性は大いにある。初代MIRAIの発売と同時に国の助成金だけで200万円以上が支給された実績もあるのだ。

 さて、以上が水素インフラの未来ストーリーである。欧州の人たちが例によって、都合が悪くなったらパリ協定そのものをガラガラポンするのであれば話は別だが、既定路線が続くとすれば、世界のためにも日本のためにも水素社会が不可欠で、どうしたってそこに適応していかなくてはならないことは伝わったと思う。

 ただそこへつながる第一歩のニワトリとタマゴがまだ解決していない。FCVが売れないと水素ステーションの利便性が上がらないし、水素ステーションの利便性があがらないとFCVは売れない。

 トヨタは自社でできることとして、まずはMIRAIを磨き上げて、商品としての魅力を高めた。しかも初代で1台売るごとに損失を計上していた価格をさらに下げるという。触媒に使うプラチナ量を半減させて、大幅なコストダウンを達成したとはいうものの、おそらくトヨタとしては今度も出血大バーゲンに踏み切ったということだろう。

 次は国のターンである。達成しなければならない未来のために、どうやってこの1周目を動かすのか。そこに知恵と力を使わなくてはならない。ひとまずは水素ステーションに補助金を突っ込んで、営業時間を延長する以外にない。せめて既存の130軒のステーションを常時稼働させることができれば、新型MIRAIを買ったオーナーの状況はだいぶ改善されるはずだ。

 MIRAIというクルマは、作るメーカーも、普及を促進する国も、買うオーナーもみんなが地球の未来に向けてカンパをするようなものだ。その中でオーナーの大損にならないようにクルマを仕上げてきて、乗る楽しみ、持つ楽しみをきっちり仕上げてきたトヨタの努力には頭が下がる。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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