Aピラーを後ろに引いた。その上でクルマ全体に躍動感を持たせ、ロングノーズを引き立てようと思えば、自ずとAピラーは後傾角を深める。当然ドライバーへの圧迫感の強い空間構成になるが、何しろ美の追求という崇高なテーマがある。弱者が八方美人を目指しても難しい。そう考えたマツダはデザインに妥協することはしなかった。
なのでMazda3やCX-30の運転席空間は決して健康なものではないが、そこで削ったリソースはちゃんとデザインで使い切っており、差し引きで損をするようなものにはなっていない。しかし、マツダの中にも、そしてマーケットにも「何もそれだけが美ではない」と思う人がいた。そこまで精神性の高い美は求めない。影なんていらない。もっと現代的で健康な、インダストリアルデザインとしてのあり方という別のバランスポイントを求める人たちがいた。そうした第7世代デザインのバリエーションがMX-30である。
MX-30のデザインスケッチ
MX-30に与えられた使命は、マツダの電動化を牽引(けんいん)する役目であり、そこは2020年代のインダストリーのまさに中枢でもある。新しい時代を体現するデザインは、美の源流に遡(さかのぼ)る陰影デザインとは確かに異なる価値になるはずである。
さて、MX-30でマツダは何をやったのか? まずロングノーズ感の演出を控え目にした。Aピラーをぐっと立てて、広い空間を作り出し、ボディを緩やかな凸面によって構成した。もちろん共通する部分はある。ヘッドランプの造形はシリンダーをモチーフにしつつ、その配置が生き物の目に見えるように配置した。優しさと目力のバランスを取りつつ、明るく生活になじむ方向へ立ち位置をずらした。写真で見ると分からないが、人が立った高さから実物を見ると、米国のダッヂのチャレンジャーを彷彿(ほうふつ)とさせる力強いカッコよさがある。
- MX-30にだまされるな
マツダの電動化の嚆矢(こうし)となるMX-30をどう見るか? このクルマのキャラクターをつかもうと思うのであれば、変化球モデルだと思わない、スポーツ系モデルだと思わない、ついでにフリースタイルドアのことも電動化のことも全部忘れる。そうやって全部の先入観を排除して、普通のCセグのSUVだと思って乗ってみてほしい。その素直で真面目な出来にびっくりするだろう。
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マツダの戦略が分岐点にさしかかっている。第2四半期決算の厳しい数字。第7世代の話題の中心でもあるラージプラットフォームの延期。今マツダに何が起きていて、それをマツダがどう捉え、どう対応していくつもりなのか? その全てを知る藤原清志副社長がマツダの今を語る。そのインタビューを可能な限りノーカット、かつ連続でお届けしよう。
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東京モーターショーの見どころの1つは、マツダ初のEVであるMX-30だ。クルマの生産から廃棄までの全過程を通して見たときのCO2負荷を精査した結果、35.5kWhというどこよりも小さいバッテリーを搭載した。世の中の流れに逆らって、とことん真面目なEVを追求した結果出来上がったのがMX-30だ。
- マツダのEVは何が新しいのか?(後編)
「MX-30は魂動デザインなのか?」。答えはYesだが、第7世代の陰影デザインは、MX-30には緊張感がありすぎる。そこでさらに「陰影」自体も取り去った。そこに残ったのは優しくて健全なある種の健康優良児のような姿だった。
- マツダのEVがスーパーハンドリングEVになった仕組み
昨日の記事でマツダのEVの、常識を覆すハンドリングフィールについてのインプレッションを書いた。革新的なハンドリングはどうやってもたらされたのか。秘密は、エンジンよりも精緻な制御が可能なモーターを使って、Gベクタリングコントロール(GVC)が、常に接地荷重のコントロールを行い続けているからである。
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