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フリーアドレス推進を「いったん中止」 コロナ禍で慎重姿勢、ハウス食品「大阪本社」のオフィス考7年前に導入(1/3 ページ)

» 2021年02月10日 07時00分 公開
[房野麻子ITmedia]

(編集部注)本記事は、2021年1月12日に取材した内容です。テレワークの状況などは、当時のものです。

 2013年に、東大阪工場の跡地に新たな本社ビルを構えたハウス食品。その際、多くの企業に先駆けて、フリーアドレスやABW(アクティビティーベースドワーキング)を導入し、オフィス変革をいち早く進めてきた。しかし新型コロナウイルスの感染が広がる今、フリーアドレスを「廃止するとは言わないが、推進もしなくなった」という。その理由はなぜか。13年当時と今を知る、担当者2氏に話をうかがった。

photo 2013年、東大阪工場の跡地に完成したハウス食品の本社ビル=同社提供

2013年、新社屋にフリーアドレスを導入

 ハウス食品の大阪本社は、食品会社発祥の地ともいえる東大阪市にある。移転前はこの場所に、いくつかある工場の中でも群を抜いて古かった東大阪工場があった。周辺は大学やホテル、住宅地が広がって商業化しており、建築基準法の観点で増築ができない状態だったという。

 ハウス食品グループ本社 総務部長の堤研二氏は「工場の運営が立ちゆかなくなったことが、本社移転の背景にあった」と振り返る。工場は順次閉鎖され、跡地をどうするか議論した際に、大阪本社の移転が決まった。移転前は半径150メートル範囲の中に4つのオフィスが分散していたが、それらを大阪本社に集約した。

 新オフィスはフリーアドレスとし、5〜6人が座れる大型のロングデスクや打ち合わせ室、集中コーナーを設置。照明や空調はゾーンごとに整備した。自社ビルとして設計する以上、社員の希望を多く取り入れた。

photo ハウス食品グループ本社 総務部長の堤研二氏=取材はオンラインで実施

 その際、特にこだわったのは「引き出しのない机」という。「個々に書類や物品をしまうのではなく、一度それらを吐き出して、私物は個人のロッカーに、それ以外は会社の書類なので共有物という観点で、半ば強制的に引き出しを排除しました。結果、今のようなロングデスクになりました」(堤氏)

 当時はオフィスが分散し、各部署で独自に書類を保存していたという。しかし、新オフィスは広いスペースにさまざまな部署が同居する形になる。個別のルールで書類を保存していたのでは、オフィスとして立ちゆかなくなるという危機感があり、保存方法を整理した。不要な書類は廃棄、法定書類など必要なものは共有スペースか外部倉庫に保存するというルールを策定した。新オフィスでは収納スペースが減ることを社員に伝え、書類や物品を厳しく整理したそうだ。

 当時は、今と比べるとフリーアドレスの考え方が浸透していなかった頃だ。設備については、さまざまな企業のオフィスを見学し、参考にしたという。集中コーナーの設置は、その際にアドバイスされたものだという。

 「各部署が同居することになるので、他部署の人に見られたくない、聞かれたくない仕事をするとき、1人で集中したいときなどに使えるように導入しました。このようなスペースも設けるべきだとアドバイスしてもらいました」(堤氏)

 集中コーナーの使い方は自由で、大阪に出張してきた社員が短時間の仕事に使うなど、有効に活用されているそうだ。

 フリーアドレスについては、移転時からさまざまな意見が出た。部下がどこに着席しているか分からない状態で、上司がしっかりマネジメントできるかという懸念も当時はあった。

 「完全フリーアドレスのオフィスも見学し、当社も最初はそうした方向で考えていましたが、建物が完成してくるに従ってだんだん現実的になり、今は部署単位で席の使い方を任せています」(堤氏)

photo 執務スペースの様子=ハウス食品提供

 「フリーアドレスだけではなく、日報を義務付けたり、勤務計画や報告をしっかりさせたり、管理とセットで考えないと弊害もある」とも結論付けた。現在は、部署内で席を移動して使っている部署もあれば、固定席にしている部署もある。忙しいときだけ固定にしたりなど、それぞれの使い方に落ち着いている。

 新オフィスになったばかりの頃は、それまでと比べて他部署と距離が近くなり、戸惑いや不満も出たという。しかし、半年もすると「事務局がいちいち対処しなくても、理解していろいろな使い方をするようになった」。時間が解決してくれた。

コロナ禍で変わったこと、変わらないこと

 コロナ禍で、本社オフィスの使い方は変化した。

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