マーケティング・シンカ論

「1日3回」が歯磨き粉市場に起こした“大逆転”とは? ライオンがしかけた啓蒙マーケティングのすごみ消費行動の変化(5/6 ページ)

» 2021年03月26日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]

歯磨き粉がパーソナルユース化した

 このような啓蒙活動を重ね、地道なマーケティングを継続してきた結果、驚くような変化が生まれてきました。ある消費者調査によると、2020年に歯磨き粉を「個人用に買った」人の割合が、「家庭用に買った」人の割合を初めて上回ったことが分かったのです。

 これまで、歯磨き粉は「ホームユース(家族みんなで使う)商品」でした。しかし、20年のコロナを機に「パーソナルユース(自分で使う)商品」へと変化したのです。これはとても大きな変化です。

 ホームユース商品には、主として食品や生活関連商品が該当します。家族で使うために購入するもの、または使用者以外が購買する商品のことです。

 パーソナルユース商品とは、ファッションやメガネ、宝石、スマホ、本などが該当します。個人が自分のために購買する商品です。

 シャンプーやボディーソープ、ハンドソープ、食器用洗剤、衣料用洗剤、そして歯磨き粉などは代表的なホームユース商品でした。歯ブラシは1人1本のパーソナル商品ですが、歯磨き粉は家族で1本というのが一般的な位置付けでした。

 多くの商品がパーソナルユース商品化し、家族で使う物と個人で使う物はほぼ分かれています。そのため、最近ではホームユース商品がパーソナルユース商品化した例はほとんどありませんでした。

 しかしそれが変わり始めたのです。家庭でも1人1本歯磨き粉を使うようになり、会社でも自分用の歯ブラシセットを常備する人が増えました。また、機能別に高単価な商品が出てきました。虫歯予防だけでなく、口臭ケアや歯周病予防などを訴求する商品が登場しています。

 歯磨き粉の購買頻度指数(1人が年間にその商品を何回購入するかを示した割合)は4.4です(筆者算出値)。今まで、家族のために買っていた商品が個人用になるとどうなるでしょうか。購買頻度指数は1.7に落ちますが、購入客数または点数が増えますので、結果的に市場が拡大することにつながります。

 また、ホームユース商品からパーソナルユース商品にシフトすると、商品は一般的に「高価格化」します。同時に商品がピンキリ化し、価格幅が広がります。家族用ならできるだけ安くて量がある199円以下のものを選びますが、自分用になると、「質の良いプレミアムな商品」が好まれるため、200円以上の商品が売れます。自分のためには少しでもよいものを買うのです。

 結果的に歯磨き粉は低価格帯商品の比率が減少し、高価格帯にシフトしています。199円以下の低価格商品が減少し、200円以上の比率が増えています。最近では、ドラッグストアでも高価格商品が並ぶようになりましたし、通販では1000円を超えるような商品も登場してきています。

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