マーケティング・シンカ論

「1日3回」が歯磨き粉市場に起こした“大逆転”とは? ライオンがしかけた啓蒙マーケティングのすごみ消費行動の変化(6/6 ページ)

» 2021年03月26日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5|6       

LTVを高めるマーケティング

 このような中、ライオンは世代別に商品展開し、顧客のLTV(Life Time Value:顧客が生涯にわたって自社にどれだけ利益貢献してくれるかを表す指標)を高めるマーケティングに取り組んでいます。

ライオンにおける歯磨き粉の年代別と機能別の商品展開

 ライオンはオーラルケア市場の中でも特に、歯磨き粉市場に焦点を当てました。歯磨き粉は消費すれば確実に量が減る消耗品ですから、なくなれば次の購買が見込めます。

 つまり、各年代への啓蒙活動により歯磨きを習慣化させ、歯磨き粉の消費を増加させ、結果的に市場をつくり出し、同分野でのトップシェアを維持し、売り上げを安定させることに成功したのです。

 コロナが後押しした部分もありますが、実はそれ以前からの同社の地道なマーケティング活動がここにきて実を結んできたのです。

 成熟市場でも売り上げを拡大させていく方法はあります。

 それは「新たに市場をつくり出す」ことです。歯磨き粉市場のような成熟市場でも、細分化していけば市場はつくれるということが分かる好事例です。

 20年12月期にライオンは約380億円を投じ、香川県坂出市に歯磨き粉の新工場を52年ぶりに建設すると発表しました(21年中の稼働予定)。オーラルケアの分野は、まだまだ市場の開拓が十分ではないと同社では考えています。日本人のオーラルケア製品に対する1人当たりの年間支出額は、予防歯科先進国である北欧諸国の6割程度だからです。まだ大きな開きがあります。洗口液などオーラルケア関連商品の売り上げは歯磨き粉に比べたらまだまだ発展途上です。日本人の生活習慣を少しずつ変えていく同社の啓蒙マーケティングによってしばらく成長は続きそうです。

 自社の強みを出せる分野で圧倒的に一番化していくライオンの戦略に学べることはとても多いです。

著者プロフィール

岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)

ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント

 1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。

岩崎剛幸の変転自在の仕事術


前のページへ 1|2|3|4|5|6       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.