クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

SKYACTIV-Xは見切り発車か確信犯か 最新のICTに熟成を委ねたマツダの強かさ高根英幸 「クルマのミライ」(3/5 ページ)

» 2021年03月29日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

多数デバイスと緻密な燃焼制御のため演算処理は膨大

 SKYACTIV-Xの燃焼を制御するために使われるパラメータの多さは、従来のガソリンエンジンの比ではないと言う。

 「基本となる適合デバイスとしては、SKYACTIV-G比でおおよそ1.5倍となります。付加されているデバイスとしては、多量の空気とEGR(排出ガス再循環装置)を導入しリーン燃焼を実現するためのスーパーチャージャーと外部EGRシステム、高燃圧インジェクタ、そしてリーン状態でもしっかり燃やし切るための筒内流動を生み出すSCV(スワールコントロールバルブ)が主なものです」(末岡氏)

 「そして、それらで実現する燃焼状態を各シリンダごとに監視する筒内圧センサーの情報を受けて、どのように賢く、適切にフィードバック制御を掛けるか、というのもSKYACTIV-Xの特徴的な適合要素です。関わったエンジニアは知恵と情熱を注いで上記を作り込み、SKYACTIV-Xをモノにし、さらに今回の改善を果たしました」(末岡氏)

 今回の改善では、パラメータの数を増やすのではなく、組み合せを増やしているらしい。さらに筒内圧センサーからの情報の精度をより高めることができたため、従来より踏み込んだ制御ができるようになったのだとか。

 SKYACTIV-Xの燃焼モードは、従来のSI(火花点火)モードと、SPCCI(火花点火制御圧縮着火)モードでも理論空燃比で燃焼を行なう、いわばSPCCIストイキモード、SPCCIで理論空燃比よりも空気量が2、3倍も多い状態で燃焼を行なうSPCCIスーパーリーンモードがあるが、実際にエンジンの中で起こっている燃焼状態の変化はさらに複雑だ。

 自然吸気の状態で大量EGR(排気ガス再循環)によって、空燃比を理論空燃比にしながらも燃料噴射量を抑える状態のいわばNAエコモードから、EGRと空気量を混ぜてSPCCIで理論空燃比で燃焼させるSPCCIストイキモード、そしてスーパーチャージャーによって空気とEGRを圧送して燃焼室を空気過多の状態にして燃焼させるSPCCIスーパーリーンモード。さらにEGRをカットして空気のみ圧送し、それに見合う燃料を噴射して火花点火で燃焼させる、高回転高負荷状態のスポーツモードとでも呼べる状態、筆者が知っているだけでも4種類はモードが存在する。しかも空気とEGRのバランスも負荷に応じて変わるし、各モードの切り替えは実にシームレスな印象だ。

 登場当初は高回転域でスーパーチャージャーを積極利用していなかったが、1年の熟成期間を経て、高回転域では過給エンジンへと変貌を遂げたのだ。それゆえ190psという最高出力と伸びやかな加速フィールを実現したのである。

 ここまで知ると、68万円高の価格にも納得がいく。いや、開発に費やした膨大な工数まで考えると、安いのではないかという気さえしてくる、果たしてSKYACTIV-はこの価格で販売して、もうけが出ているのだろうか。

 「最終的には競合車種などとの比較をして価格を決めています。決して利益がないわけではなく、SKYACTIV-Gよりも利益もあるクルマになっています」(谷本氏)

 利幅が薄いということはない、と語るが、それは生産コストだけを見た判断ではないのか。少なくともSKYACTIV-Xは、今後も進化のための研究開発が続けられるだろうし、MAZDA3とCX-30だけで元が取れるとは思っていないのだろう。

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