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出向によって社員の成長を促す JALの人事部に聞く、3つの目的(2/2 ページ)

» 2021年04月28日 07時00分 公開
[リクルートワークス研究所]
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 「出向先は、ありがたいことに多くの企業からオファーをいただいています。その企業とお話をするなかでお互いにWIN-WINな関係の出向になるかをすり合わせしています。出向先にとっても出向元の当社にとってもWIN-WINとなる一番のポイントは、社員が価値を発揮できる場、そして社員が生き生きとモチベーション高く働ける場があるかという基準です」(松浦氏)

 具体的な条件の一つは、勤務地が自宅から通えるかどうかだ。「仕事も生活環境も変わってとなると、社員にとって不安材料が増えてしまいます。そのため勤務地が生活環境を変えずに働ける範囲にあるかどうかも重要視しています」(松浦氏)

 仕事内容も細かくすり合わせている。対象となるのは、減便で仕事に余裕ができた空港スタッフや客室乗務員など、現場で活躍してきた社員が中心となる。「そのため、デスクワークよりはコミュニケーションやチームワークの醸成が得意な社員が多く、それが先方のニーズとマッチするかを丁寧に確認しています」(松浦氏)

 グループ全体では2021年3月時点で、1日あたり最大1000人の出向者を送り出している。出向先では、家電量販店やホテルなど対面で行う接客や、コールセンターでの業務などを担う人が多い。「これまでの接客経験を生かして、教育を依頼されるケースもあります。本人にとってはスキルを生かすだけでなく、人に教えるという新しい経験を積むことにつながっています。また、これまで対面で行っていた業務を、コールセンターという職場で電話やチャットを通じて行うことも、貴重な経験になっていると思います」(松浦氏)

 人事としての役割を聞くと、「出向先との調整がメイン」(松浦氏)という。「2020年の夏から秋にかけては、1日に3、4件は、出向について話し合うために企業を訪問しました。出向先として決定したのち、対象となる社員などへ職場環境や業務内容をリアルに説明するには、人事が自分の目で見ておくことが重要でした」(松浦氏)

この1年間の不安より3年後の楽しみが強い

 人員に余裕があるとき、教育に時間を使うのか、出向させるのか。出向させるとなれば、どこに何人出向してもらうのか。これらの決裁権限は、部門別採算制度をとっているため、基本的に各本部の本部長やグループ会社の社長にある。「公募制の場合もあれば、本部やグループ会社の人事が“あなたが適任だと思う”とレコメンドすることもあります。いずれにしても、本人の同意が前提です」(松浦氏)

 公募には、多くの社員の手が挙がるという。「社長からのメッセージに加え、本部長が部下に対して『今こそ、自分たちの活躍フィールドを広げていこう』と丁寧にメッセージを出しています。それが出向という施策がうまく回る素地となっています」(松浦氏)

 とはいえ、「2回目の緊急事態宣言を受けての需要の沈み具合が大きく、向こう1年間に対しては、確かに不安はある」(松浦氏)という。

 「それでも社内に暗いムードがないのは、目線を先に置いているからです。この1年間の不安と、3年後の楽しみでいうと、楽しみの方が強いと思います。例えば私が出向先の多くの企業と調整するという今までにない経験をしているように、出向している社員もしていない社員も、JALグループ全社員が新しい挑戦をしています。今までとは異なる業務や環境により負荷が大きくなったと感じている社員も多くいます。ただ、今進めている社外出向をはじめとするさまざまな取り組みが中長期的に実を結び、その挑戦で得た経験や知見を再集結させることで、より強い会社になり得ると信じているのです。少し先の明るい将来を見据え、この苦しい1年を乗り越えようとしています」(松浦氏)

 本記事は『Works』165号(2021年4月発行)「Part 2 社員の能力・スキルの向上と変容をいかに行っていくか」より「方法2:出向によって社員の成長を促す」を一部編集の上、転載したものです。

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